2018年02月13日
  コラム

【「航空新世紀」~進化する飛行機の世界~】第3回 航空機のダイナミック・シミュレーション~より安全な飛行を目指して~

東北大学大学院工学研究科・教授 浅井 圭介

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年12月1日掲載

 

世界のどこかで航空機事故が起こると必ず報道でとりあげられます。ニュースをみていると、飛行機が危険一杯の乗り物のように思えてきます。

しかし、統計的に飛行機は大変安全な乗り物です。年によって異なりますが、米国国家運輸安全委員会の調査によると、100万飛行時間あたりの死亡事故件数は1件程度に過ぎません。

米国で1年間に自動車事故で死亡する人の数よりも、ライト兄弟の初飛行以来起こった航空機事故による死者の数の方が少ないのです。

大学院生が学ぶ航空安全の最前線~C-Lab研修「航空安全フロンティア」
航空機の設計と運用において「安全」はもっとも重要なファクターです。航空機がより安全に飛行できるよう不断の努力が求められます。

東北大学ではリーディング大学院プログラムの一環として「航空安全フロンティア」という教育研修を実施しています。

JAXA航空技術本部の協力のもと、航空安全の専門家による集中講義やフライトテストへの学生の参加などの活動を行っています。今年度はMRJの飛行試験が行われている名古屋空港にあるJAXA飛行研究拠点に6名の大学院生を派遣しました。実験用の航空機に乗り込み、飛行中の主翼の構造変形を測定するという貴重な体験ができました。

航空機による重大事故の最大の原因~Loss of Control In-flight(LOC-I)
航空機による死亡事故はどのような原因で起こっているのでしょうか?

民間航空の国際的な組織であるICAOがまとめた統計データ(図1)によると、航空機の死亡事故の原因のトップは「LOC-I」(ロックアイと読みます)と言われる事象です。

LOC-IとはLoss of Control In-flightの略で、何らかの原因で航空機が通常では考えられない異常な姿勢に陥り墜落する事故を指しています。LOC-Iが起こる原因としては、晴天乱気流やウィンドシアなどの気象不安定、それに着氷や大型機の後方乱気流などが挙げられます。

LOC-Iに陥ると航空機は25度を越える機首上げ姿勢になったり、機軸に対して45度以上傾いたりします。

安全に飛行するための鍵を求めて~動的風洞実験(DWT)
LOC-Iが難しいのは、危険がゆえに飛行試験による確認やパイロットの訓練が行えないことです。航空機がLOC-Iに陥ったときに航空機がどのような運動をするのか事前にはわからないのです。

我々はこの問題に実験空気力学の立場でアプローチしています。つまり、飛行試験では行えない危険な状況を風洞実験で再現してやろうと考えています。このような実験を我々は動的風洞試験(Dynamic Wind Tunnel Test [DWT])と呼んでいます。DWT実験を支えている最新の技術が「ロボットマニピュレータ」です。

図2は、ロボットがご専門の内山勝名誉教授の研究室と共同で開発した6自由度超高速パラレルロボット「HEXA」です。このロボットは独立した6つのモータとリンク機構からなり、上下・左右の振動や高速の回転運動を再現する能力をもっています。これを用いて飛行機の模型を風洞気流中で「模擬飛行」させる実験に取り組んでいます。

究極のロボットマニピュレータ~磁力支持天秤装置(MSBS)
私たちの研究室では最近、DWTの新しい可能性を求めて、「磁力支持天秤装置」(Magnetic Suspension and Balance System [MSBS])という装置の研究開発をはじめました。

MSBSは電磁石が発生する磁気力で模型を空中支持する装置です(図3)。

元JAXAの研究員で現在は流体科学研究所客員教授の澤田秀夫博士はMSBSの世界的権威で、博士が設計された低乱風洞用の1m MSBSは世界最大の規模を誇っています。

我々の研究室のMSBSはこれよりずっと小型ですが、動的空気力の測定や流れ場の可視化、運動を制御するさまざまなデバイスの研究開発に利用されています(図4)。

現在、乱気流を発生する装置を製作中で、これができると風洞で突風を受けたときの航空機の応答が調べられます。将来的にはMSBSを使ってLOC-Iの風洞実験を行いたいと考えています。

(動画はこちら

将来の夢~航空安全のための教育研究のさらなる発展に向けて
本日最後に、昨年度航空安全フロンティアの受講生を連れてドイツに海外遠征したときの写真を紹介しておきます(図5)。

場所はドイツ航空宇宙研究センター(DLR)の飛行実験施設で、私たちの背後に見えるのはエアバスA320を改造した実験機「ATRA」です。

案内をして下さった飛行実験部門のエルンスト部長のお話しでは、ATRAを使った実験にブランシュバイク工科大学やベルリン工科大学の大学院生が参加しているそうです。

初回でお話ししたように、今日本の航空はかってないほど「熱い」状態にあります。自国で開発された航空機のフライトテストに大学生が参加できる環境を我が国にも作りたいと、夢見ています。

 

<リンク>
東北大学「グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」
http://g-safety.tohoku.ac.jp/
航空機の重大事故の統計データ
http://www.boeing.com/resources/boeingdotcom/company/about_bca/pdf/statsum.pdf

 

次回は「第4回 地球温暖化と航空機~キーワードは「サステナブル」」です。

 

【プロフィール】
浅井 圭介(あさい・けいすけ)東北大学大学院工学研究科・教授
1956年、大阪府生まれ。京都大学工学部航空工学科卒業。航空宇宙技術研究所(現JAXA)に23年勤務した後、東北大学大学院に転任。1988-89年、客員研究員としてNASAラングレー研究センターに滞在。現在の研究テーマは先進的な風洞実験技術の開発、惑星探査のためのロコモーション技術の研究など。小学生のときからの飛行機マニアで、「世界の航空博物館&航空ショー」(共著)、NEWTON別冊「航空機のテクノロジー」(監修)などの著書がある。

※所属等は取材当時のものです。

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