2018年02月13日
  コラム

【「航空新世紀」~進化する飛行機の世界~】第4回 地球温暖化と航空機~キーワードは「サステナブル」

東北大学大学院工学研究科・教授 浅井 圭介

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年12月3日掲載

 

今週パリでは、地球温暖化対策の枠組みを決める国際会議「COP21」が開催されています。この会議に世界の注目が集まるのは地球温暖化が「待ったなし」の状況だからです。温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出をこのまま放置すれば、2050年には仙台でも40℃を越える猛暑が記録されるかもしれません。低炭素社会への転換は急務の課題であり、航空機の場合もこの問題を避けて通ることはできません。

ジェット旅客機の燃費はいくら?

そもそも、航空機はどの程度の燃費をもっているのでしょうか? ボーイング777を例にとると、最大燃料積載量は171,160リットル、最長航続距離は14,316kmなので、予備燃料を10%とすると、リッター当たりの飛行距離は0.093kmとなります。これを座席数で分けると、人1人当たりの燃費は28km/L、つまり航空機の燃費は原付オートバイとそれほど変わらないのです。

航空輸送が環境に与えるインパクト

それでは、航空機が排出するCO2はどの位の量でしょうか?

ICAOのホームページに「CO2 Emission Calculator」というアプレットがあり、例えば、B777(搭乗率100%)で東京-サンフランシスコを往復する間に排出される1座席当たりのCO2の排出量を計算することができます。その回答はなんと1165kg!米国出張の度に1トンを越えるCO2を放出しているかと思うと、地球に謝りたい気分になります。

今、世界中のエアラインからなる国際航空運送協会(IATA)では、2020年までに「カーボン・ニュートラル」を実現することを目標に掲げています。つまり航空機でもCO2の排出量と吸収量を均衡させようというのです。

航空機のダイエット~バイオ燃料

カーボン・ニュートラルを可能にする様々な技術の中で、もっとも実現性が高いのが「バイオ燃料」です。石油も元を正せば生物起源のバイオ燃料です。地球温暖化が起こるのは、過去につくられたバイオ燃料を今になって大量に使うからです。

例えば、ジェトロハとよばれる植物からジェット燃料を精製することができ、排出されるCO2と吸収されたCO2を均衡させることができます。この燃料を混合した燃料の試験的な運用が日本航空や全日空で既に行われていて、技術的には支障のないことが確認されています。

ソーラープレーン~太陽の恩みで飛ぶ飛行機

覚えておられる方も多いと思いますが、世界一周の冒険飛行に挑んでいる「ソーラー・インパルス2」が今年6月に名古屋空港からハワイまでの無着陸飛行に成功しました。

この飛行機はその名の通り、太陽エネルギーだけで飛ぶよう設計された飛行機です。翼面に張られたソーラーパネル(計66 kW)でバッテリーを昼間に充電し、それを夜間の飛行に利用しました。名古屋-ハワイ間の飛行時間は117時間52分です。

バイオ燃料も太陽(光合成)の恵みによるものですが、ソーラープレーンが受ける恩恵はよりダイレクトです。太陽エネルギーを使えば無限に飛び続けられることをソーラー・インパルス2が証明したのです。

電動航空機~低燃費飛行機の切り札

翼幅80m近い巨人機であるソーラー・インパルス2の総重量は2トン足らず。ソーラープレーンが飛ぶにはきつい減量が必要です。乗員はボルシュベルク操縦士ただ一人でした。

より実用的な「電動飛行機」の開発が世界各国で進められています。鍵となるのは強力な電動モータとリチウムバッテリーです。ボーイングやエアバスが実証機を飛行させていて、我が国でもJAXAが「FEATHER」という名の研究開発プロジェクトのもとで、独自に開発した電動推進システムを搭載したモータグライダーの飛行試験を行いました。

実は前回紹介したリーディング大学院の教育研究プログラム「航空安全フロンティア」の一環として、受講生がFEATHERの地上滑走試験に参加する機会を得ました(図2)。電動航空機に必要とされる技術はハイブリッド自動車や電気自動車と同じです。いずれも我が国の得意分野であり、産業としての成長にも期待が集まります。

研究開発の現場では、さらに先を見すえた検討が始まっています。図3はNASAの「N3-X」というプロジェクトで考えられているハイブリッド式電動航空機の想像図です。この飛行機はガスタービンで駆動された超電導発電機を動力源とし、超電動モータで多数のファンを駆動します。エアバスやJAXAも似たコンセプトの電動エンジンの研究を行っています。それらの開発には、超伝導、低温工学、固体燃料電池技術など、従来航空とはあまり縁のなかった分野との、専門の枠を越えた協力が必要とされています。

最後に

冒頭で紹介したIATAの環境改善目標には続きがあって、2050年までに航空機によるCO2の排出量を半減する(2005年のレベルに対して)という目標が掲げられています。地球環境や人間に無理のない飛行機の登場が求められているのです。

航空機の未来像は色々ありますが、「サステナブル」であることが、これからの航空機の進化の鍵を握っていると言えます。

<おまけに>
究極の省エネ飛行機と言えば「人力飛行機」。200ワットのパワーで飛行できます。鳥人間コンテストでの東北大学の学生チーム「Windnauts」(ウィンドノーツ)の活躍は皆さんご存知のとおりです。今年7月に行われた第38回大会で5回目の優勝を果たしました。優勝パイロットは機械系2年の松島昂汰くん、飛行距離は35367.02m。夢の周回飛行達成まであと一歩と迫りました。

<リンク>
航空機のCO2排出量計算機
ICAO Carbon Emissions Calculator
http://www.icao.int/environmental-protection/CarbonOffset/Pages/default.aspx

東北大学「Windnauts」
http://www.windnauts.sakura.ne.jp/

次回は「第5回 火星に飛行機を飛ばす!~宇宙,地球,生命を知るために」です。

【プロフィール】
浅井 圭介(あさい・けいすけ)東北大学大学院工学研究科・教授
1956年、大阪府生まれ。京都大学工学部航空工学科卒業。航空宇宙技術研究所(現JAXA)に23年勤務した後、東北大学大学院に転任。1988-89年、客員研究員としてNASAラングレー研究センターに滞在。現在の研究テーマは先進的な風洞実験技術の開発、惑星探査のためのロコモーション技術の研究など。小学生のときからの飛行機マニアで、「世界の航空博物館&航空ショー」(共著)、NEWTON別冊「航空機のテクノロジー」(監修)などの著書がある。

※所属等は取材当時のものです。

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