2020年01月21日
  コラム

貧血を予防するために 

皆さんは貧血と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか?顔色が悪い、疲れやすい、だるい、そんなイメージを持つ方が多いかと思います。貧血は、酸素を運ぶ細胞である赤血球の数が減り、体に酸素を供給できなくなっている状態を指します。我々の体は酸素を使ってエネルギーを作り出しているので、酸素がなければ生命を維持することはできません。ですので、赤血球という細胞は人体にとってとても大切で、その数は血液1mlあたり50億個、総計25兆個にもなります。もちろん、人体で最多の細胞です。

 

それでは、赤血球はどのようにして酸素を運ぶのでしょうか?

 

赤血球は酸素を組織に運ぶためにヘモグロビンという物質を細胞内に大量に蓄えています。ヘモグロビンには鉄が含まれており、この鉄が酸素と直接結合することにより、赤血球は酸素を運ぶことができるのです。

 

赤血球が減ると、当然赤血球に含まれているヘモグロビンの量も減りますので、酸素がうまく供給できなくなります。その結果、組織が低酸素となり、だるさ、めまい、息切れ、動悸などの症状が出てきます。赤血球が少なくなるので、顔の赤みは減り青白くなって顔色が悪くなります。また、鉄は赤血球だけでなくすべての細胞にとって必要な元素ですので、鉄が不足すると舌の荒れや爪の変形など貧血以外の症状も出てきます。理解力の低下や作業効率の低下の原因にもなるといわれています。

 

貧血の原因は多数あるのですが、もっとも頻度が高いのは鉄不足による鉄欠乏性貧血です。鉄不足によりヘモグロビンが作れなくなり、貧血になるわけです。日本では月経がある女性の10-20%がこの鉄欠乏性貧血であるといわれており、数でいうと200-400万人にもなります。

 

なぜ、このように若い女性に鉄欠乏性貧血が多いのでしょうか?

 

実は食べ物から吸収される鉄の量は微量で、体の中で古くなって壊された赤血球からリサイクルされる鉄の量の方がずっと多いのです。鉄を体から出さずに大事に再利用しているということですね。このシステムは鉄の量を安定して維持するためには有効なのですが、たとえば月経などの出血があって、食べ物からの供給を超えて鉄が失われると、体の中の鉄の保有量は下がってしまいます。月経のある女性で高率に鉄欠乏性貧血がみられるのはこのためです。特に、思春期の女性が鉄欠乏のハイリスクです。その理由はいくつかあります。そもそもこの年代は月経があり定期的に鉄が失われます。加えて、成長期は体の成長のため鉄の需要そのものが増えますし、さらにクラブ活動などで激しい運動をすると、汗で鉄が失われる一方で、筋肉が増えることで鉄の必要量も増えてきます。また、場合によっては美容を過度に意識して十分な栄養を取っていない場合もしばしばあるように思います。

 

図:鉄分を多く含む食材

 

それでは、鉄不足を予防するにはどうしたらよいでしょうか?

 

予防となると意識的に鉄を取るということにつきます。食べ物から吸収される量は少ないといっても、鉄不足になると鉄は吸収されやすくなりますし、不足する分は食べ物から摂るしかありません。鉄は肉にも緑黄色野菜にも含まれており、ほうれん草を鉄鍋で炒めてというのも悪くありませんが、肉に含まれている鉄の方が、野菜に含まれている鉄よりも吸収が良いことが知られています。ただ、毎日肉だけ食べていると他の栄養素の摂取が偏ってしまうため、鉄を含んだ食材をバランスよくとる必要があります。ビタミンCは鉄の吸収を促進するので、積極的にとるとよいかもしれません。少なくとも炭水化物やスイーツだけの食事はNGですね。顔色が悪い、疲れやすい、以前と比べ運動のパフォーマンスが落ちている、といった症状があったら、鉄欠乏性貧血を疑って、食生活を改善する、場合によっては病院で鉄剤の処方を受けるといった対応をしていただければと思います。

 

一つ注意をしなければならないのは、成人男性や閉経後の女性でみられる鉄欠乏性貧血はよく調べる必要があるということです。

 

この方たちは月経がないので、それ以外の出血を考えなければなりません。具体的には、胃がんや大腸がん婦人科がんなどのがんによる出血です。鉄欠乏性貧血は、世代や性別によっては注意しなければならない貧血なのです。

 

【プロフィール】

張替秀郎(はりがえ ひでお)

東北大学医学系研究科血液・免疫病学分野 教授

専門は血液内科学。白血病や悪性リンパ腫などの血液がんや難治性の貧血の診療に携わっている。趣味は落語鑑賞。笑いは日々のストレスを和らげてくれると信じている。

 

 

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