2017年12月12日
  東北大学コラム

【48年目に一斉に咲いたタケ~植物がもつ「時計」の生態学~】第4回 枯れない竹林の謎

東北大学大学院農学研究科准教授 陶山 佳久

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年10月8日掲載

 

インドで48年前に採られた種子から育てられたタケが(図4-1)、別の気候下である遠い日本でも、48年後にほぼ同時に咲きました。このことは、おそらくそのタケが内的な「時計」のような仕組みを持っていると考えると説明がつきます。しかし、生物の仕組みである以上、そのような「時計」が壊れてしまうこともあるでしょう。

図4-1 インドで採取された種子から発芽したナシタケ(メロカンナ)。48年前に採取された種子からも、このように発芽したタケが育てられたことでしょう。この芽生えから育ったタケも、48年後に咲くのでしょうか。

 

そんなことをぼんやりと考えながら、そのタケの自生地であるインドのミゾラム州を調査していると、立ち寄った村で興味深い話を聞くことができました。その村には、現地語で「マウハク」と呼ばれる「枯れない竹林」があるというのです。

 

村の古老は、自宅の窓から見える遠くの竹林を指差して、「あのマウハクは今回も前回(48年前)も枯れなかった。96年前も枯れなかったと言い伝えられている」というのです(図4-2)。

図4-2 自宅の窓から「枯れない竹林」を見ながら説明してくれた古老。

 

この地域では、タケは非常に重要な資源として、建物や竹細工の材料などとして使われています(図4-3)。しかし、一斉に花が咲いて枯れてしまうと、新しいタケが大きくなるまでの間、タケがまったく使えない時期ができてしまうことになります。

図4-3 建築用などとして盛んに使われる竹材

 

村人によると、それでは困るだろうということで、「神様がそれぞれの村に1つずつ枯れない竹林を作ったと言い伝えられているのじゃ」と話してくれました。この話が示している通り、各地をよく調べてみるとさまざまな村にマウハクがあり、村によっては大切に維持管理されていました。

 

この話を聞いて、すぐにピンときました。もしも突然変異によって「時計」が壊れてしまったタケができてしまうと、そのタケは花が咲かないまま、いつまでもタケノコを出して増え続けていくことになります。

 

通常のタケが48年目に一斉に咲いて枯れてしまうと、この「壊れた」遺伝子を持つタケは枯れずに生き残るので、競争相手のいなくなった枯れ竹林に一気に広がっていくはずです。すると、初めは小さな1本のタケだったかもしれないその個体が、どんどん増えてタケを増やしていき、ついには1つの竹林を形成するに至るのではないかと考えたのです。

 

つまり、「マウハク」と呼ばれる「枯れない竹林」は、時計の壊れた巨大な1個体の竹林なのではないかというのが私たちの仮説です(図4-4)。

図4-4 一斉開花前のナシタケ(メロカンナ)の林内。「マウハク」では今回の一斉開花時にも枯れることなく、このような竹林が維持された。

 

この仮説を確かめるべく、DNA分析によって枯れない竹林を構成するタケを調べました。つまり、タケの個体を識別して、その竹林が1個体だけで構成されているかどうかを確かめてみたのです。図4-5に示したのは、同じマウハクのまったく別の場所から採取された2本のタケの遺伝子型を示したものですが、上段の波形と下段の波形がまったく同じであることがわかります。この方法は、人間のDNAを使った犯人特定などに使われている技術と同じもので、植物でも同様に個体や親子を見分けることができます。

図4-5 同一個体(クローン)かどうかを識別するDNA(SSR)分析の波形。同じ個体ならば同じ位置にピークが出ます。上段と下段は1つの「枯れない竹林」の別の場所から採取されたタケの分析結果ですが、遺伝子型は完全に一致しており、これらは同一個体である可能性が極めて高い。

 

このようにして、いくつかの枯れない竹林を構成しているタケのDNAを調べてみました。中には数ヘクタール以上にも及ぶ大きな竹林もあったのですが、その結果は予想どおり、巨大な1個体の竹林であることを強く示唆するものでした。

 

詳しくは現在も検討中ですが、この結果は48年間を数える「時計」のようなメカニズムと、それが壊れた場合に想定される私たちの仮説を考えるにあって、非常に重要なヒントを与えていると考えられます。

 

さて最終回の次回は、48年を数える仕組みの謎について、もう少し詳しく迫ってみたいと思います。

 

次回は「第5回 周期年の「48」という数字」です。

 

出典:陶山佳久著「48年周期で咲いて生まれ変わるタケ」、(新田梢・陶山佳久編)生物時計の生態学—リズムを刻む生物の世界(仮).文一総合出版 2015年12月出版予定

謝辞:この記事は、京都大学の柴田昌三教授をリーダーとした共同研究チームによって、2005年から行われた一連の研究プロジェクトの成果にもとづいています。

 

【プロフィール】

陶山佳久(すやま よしひさ)

東北大学大学院農学研究科准教授

専門は森林分子生態学。DNA分析技術を使った植物の繁殖生態・進化に関する研究のほか、絶滅危惧植物の保全遺伝学、植物古代DNAの分析、生物多様性保全やその応用技術に関する研究など、国内外で多彩な研究を行っている。

主な著書に『生態学者が書いたDNA の本』(共著、文一総合出版、2013年)、共編著書に『地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン』(文一総合出版、2015年)、『森の分子生態学2』(文一総合出版、2012年)、『Single-Pollen Genotyping』(Springer、2011年)、『森の分子生態学』(文一総合出版、2001年)など。

※所属等は取材当時のものです。

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