2018年02月20日
  東北大学コラム

【人間関係は犯罪を防げるか?】第2回 人間関係の重要性

東北大学大学院文学研究科  行動科学専攻分野   佐藤嘉倫 教授

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年12月15日掲載

 

私の子供の頃のことを思い出すと、東京の下町では近所の大人たちが自分の子供だけでなく他人の子供にも注意を払っていました。1つのエピソードを紹介しましょう。

私が小学生の頃、ある冬の日、友達と近所の理容店の駐車場で段ボールを尻に敷いてそり遊びをしていました。駐車場は理容店の北側の斜面になっていたので氷が張っていて、そり遊びにちょうどよかったのです。さんざん遊んだ後、段ボールをそのままにして家に帰ろうとしたら、理容店の隠居したおじいさんが出てきて、「きちんと片付けろ」と怒られました。しぶしぶ片付けて家に帰ると、今度は母親に「なんで段ボールを片付けなかったの」と叱られました。おじいさんから母親に電話が行っていたのです。このような近所の大人の間の人間関係が、子供たちが悪いことをするのを防いでいたと言えましょう。

現代の社会科学者たちはこのような人間関係のことをソーシャル・キャピタル(社会関係資本)と呼んで、人々の生活や社会のあり方に大きな影響を及ぼすと考えています。

この研究分野の第一人者だった故ジェームズ・コールマン・シカゴ大学教授は、著書『社会理論の基礎』の中でデトロイトからイスラエルのエルサレムに引っ越した母親の話を紹介しています。彼女はその理由として、デトロイトと違ってエルサレムでは子供だけで市バスに乗って学校へ行ったり、彼女がいなくても子供を公園で遊ばせたりすることができることをあげています。

エルサレムには親が付き添っていない子供は他の大人が見守るという規範があるので、子供が自由に行動できるわけです。

東京の下町ではどうでしょうか。下町の特徴は地元に根付いた自営業が多いことです。私の子供の頃は、小さなお店や食堂、町工場などがたくさんありました。また私の友達の中には親が自営業なので、大人になって親の家業を継ぐ者も何人かいました。このような自営業の人々が長期的な人間関係を築いています。

具体的なイメージを描くとすれば、国民的映画だった「男はつらいよ」に出てくる団子屋さんがいいでしょう。主人公の車寅次郎のおじさんとおばさんの夫婦でやっているお店です。2人は近所のお店の人たちと親しい付き合いをしていて、近所のタコ社長がよく家に上がり込んでいます。このような濃密な人間関係があるので、下町では犯罪が起こりにくいのではないでしょうか。

このようなアイディアを持って、倉沢進先生の『東京の社会地図』をまた見てみると、2つの地図がありました。男性自営業率と残留人口率(同じ地区に長く住んでいる人の率)の地図です(下の地図)。どちらも東京の下町の方に集中していることが分かります。長期にわたって同じ所に住んでいる自営業の人々が地元で人間関係を築いて、その人間関係が犯罪を防いでいると推測されます。

それではなぜ自営業の人間関係が犯罪を防ぐのでしょうか。次回はこのことについて考えていきます。

 

 

次回は「第3回 なぜ自営業の人間関係は犯罪を防ぐのか?」です。

 

【プロフィール】

東北大学大学院文学研究科 行動科学専攻分野

佐藤 嘉倫 教授

合理的選択理論の視点から、信頼や社会的不平等の解明に取り組んでいる。

編著に『ソーシャル・キャピタルと格差社会』(東京大学出版会、2014年)がある。

趣味 ジャズ鑑賞、ギター、料理、スキー

※所属等は取材当時のものです。

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