2018年01月30日
  東北大学コラム

【脳はカルシウムがなければ働かない!?】第4回 謎の遅いカルシウム振動

東北大学大学院医学系研究科・准教授、同大学院医工学研究科・准教授   小山内  実

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年11月12日掲載

動画3:謎の遅いカルシウム振動

こちらで再生

 

 

第1回で、カルシウム (Ca2+) は脳がはたらくために大事だ、と言っておきながら、第2、3回とカルシウムを測って脳の活動を知る、というお話をしたので、「カルシウムが脳に大事だというのはもう終わり?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はちゃんと脳の機能と関係しているかもしれないカルシウムのお話をします。

 

なぜ、最初からその話をしないのか?というと、皆さんに基本的知識を得て欲しかったためということもありますが、第1回でもお話ししたように、記憶・学習・忘却や認知・知覚、行動選択などの脳の機能 (このような機能を脳の高次機能ともいいます) にカルシウムが大事だというのは分かっていても、実際に個々のニューロン (神経細胞) のカルシウム濃度と脳の機能を直接結び付けることに成功した研究がほとんどないので、これだ!ということがなかなか言えない状況でもあるからです。

 

そのような状況ではありますが、今回は、我々が世界で初めて発見した「謎の遅いカルシウム振動」の紹介と、そのカルシウム振動が脳の機能に関係しているかもしれない、というお話をしたいと思います。

 

まず、謎の遅いカルシウム振動とは、脳の中の大脳基底核線条体と呼ばれる部位のニューロンとグリア細胞で観察される現象です。ページ TOP の動画のように、脳の組織を観察していると、たくさんの細胞で勝手に (自発的に) カルシウム濃度が変化する様子が観察されます。(グリア細胞は、脳に存在するニューロン以外のほとんどを占める細胞で、ニューロンへの栄養補給や、不要物の除去に加えて、近年は脳の情報処理にも関係しているといわれている重要な細胞です。ここでは、スペースの関係もあるので、詳細は他誌に譲ります。)

 

この動画は第2回で紹介したカルシウムイメージングの動画に似ていますが、その動画よりも、時間がはるかに遅いのです (動画の下に実際の時間が表示されています)。このカルシウム濃度の時間変化をグラフにすると以下の図のようになります。

第2回で紹介した神経活動に伴うニューロンのカルシウム濃度変化の持続時間は長くても 1 秒程度ですが、この遅いカルシウム振動では、最大約 200 秒もの間、細胞の中のカルシウムが上がっています。第2回で説明したカルシウム濃度変化は、神経細胞が活動電位を発生させたときに、電位依存性カルシウムチャネルというカルシウムの通り道が開いて、細胞の外から中にカルシウムが流れ込むという現象を利用していましたが、この遅いカルシウム振動は、そうではなく、細胞の中のカルシウムの貯蔵庫から細胞の中にカルシウムが取り出されて起こっていました。このカルシウムの貯蔵庫を小胞体といい、小胞体からカルシウムが出てくることをカルシウム放出といいます (この小胞体は、第1回で紹介したシナプス小胞とは全く違うのでご注意下さい)。

 

この小胞体からのカルシウム放出は、様々な神経伝達物質やホルモンなどが代謝型受容体というタンパク質に作用することで起こることが知られています。では、このカルシウム放出で出てきたカルシウムは何をするのでしょうか?

 

カルシウムは、細胞に中に存在するたくさんの酵素を働かせたり働かせるのをやめたりする役割を持っているのです。

 

ニューロンに限らず細胞の中にはたくさんの酵素と呼ばれる特殊なタンパク質が存在します。この酵素が働いたり働かなかったりすると、細胞の中のタンパク質の状態が変化したり、遺伝子をタンパク質に翻訳する (これを遺伝子発現といいます) 仕組みが調節されたりします。これにより、細胞はその機能を変化させたり、形が変わったりします。さらにニューロンの場合には、第1回でご紹介したように、酵素の働きによってシナプス伝達の効率が変わったりします。

もう少し具体的にいうと、ニューロンの中のカルシウム濃度によって酵素の活性が変化することにより、細胞の形が変化してシナプスを作る相手が変わったり、シナプス伝達の効率が変化して記憶・学習・忘却が起こったり、入力と出力の大きさの関係が変わったりして、脳の高次機能が発現すると考えられています。

 

例えば私たちは同じことが起こっても、毎回同じ行動をするとは限らないですよね?この同じ入力に対して違う行動を起こすのは、脳の状態、つまりニューロンの状態が異なるために起こると考えられています。「謎の遅いカルシウム振動」はニューロンでカルシウムの状態が振動しているということを示していますが、これにより酵素の活性も時々刻々変化して、脳の状態が変化している可能性があります (図 14)。

また、このようなニューロンの状態の変化はゆっくりと変化すると思われます (例えば、気分がミリ秒単位でころころ変わることはほとんどないですよね?)。つまり、私たちが発見した「遅いカルシウム振動」は、行動選択などの脳の高次機能に関係していることが予想されるのです。

 

このカルシウム振動が本当にそのような脳の機能と関係があるのかはこれから確かめなければいけませんが、ニューロンのカルシウムが皆さんの行動を決めているとしたら、面白いと思いませんか?

 

次回は、「カルシウムと脳の病気」の関係についてお話ししたいと思います。

 

次回は「第5回 カルシウムと脳の病気」です。

 

【プロフィール】

小山内 実 (おさない まこと)

・東北大学大学院医学系研究科・准教授、同大学院医工学研究科・准教授を兼務

・茨城県水戸市生まれ、水戸一高卒 (小学校1年までの幼少期を仙台市で過ごす)

・脳機能解明に向けて、カルシウムイメージングを主な手法として研究を行っている。

・著書には、認知機能とカルシウム―基礎と臨床― (小川純人 編) 「大脳における細胞内カルシウム振動と神経・認知機能」医薬ジャーナル社、臨床医工学・情報学スキルアップシリーズ 1 臨床医工学スキルアップ講座 (春名 正光ら 編) 「バイオイメージング」大阪大学出版会、がある。

・電気学会 電子・情報・システム部門大会, “企画賞”(2013)、日本生体医工学会“生体医工学シンポジウム2006 ベストリサーチアワード”(2006) などを受賞、日本生理学会評議員。

※所属等は取材当時のものです。

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