2015年06月18日
  東北大学コラム

マヤ神話の数奇な運命【なぜ、神話は滅びないのか?】第4回

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年6月18日掲載

 

紀元前から高度に栄えたマヤ文明——。

 

16世紀にスペイン人が到来するとあっという間に滅亡し、神々の信仰や文字の意味は忘れられました。しかし今もマヤ系の諸民族はメキシコやグアテマラなどに暮らしつづけており、その神話は『ポポル・ヴフ(ウーフ)』に記されています。

 

マヤ系のキチェ語で書かれ、世界創造から王たちの系譜までをつづった聖なる書物。でもそれは数奇な運命をたどりました。

 

[1524年]

スペイン人がキチェ族を征服。

 

[1554~1558年ごろ]

アルファベットを教わった位の高いキチェの知識人が、

キチェ語で『ポポル・ヴフ』を記した。恐らくマヤの伝統を必死に記録したのでしょうが、本書は長いこと忘れられていました。異教弾圧を恐れて、隠されていたのかもしれません。

 

[1702年ごろ]

ドミニコ会のヒメネス神父は、偶然これをグアテマラで発見。

キチェ語の原文を筆写し、スペイン語訳を付けます。ところが原本は再び行方不明となり、ヒメネス神父の写本も長い間、世に出ることはありませんでした。

 

[1855年]

グアテマラを訪れたフランス人ブラッスール・ド・ブールブール神父が写本を再発見、キチェ語の原文とフランス語訳の対訳版を1861年に出版しました。この本はすぐに話題となり、ヨーロッパではセンセーションを巻き起こします。

新大陸アメリカに、こんな神話があったのか!と。

 

けれども『ポポル・ヴフ』の紆余曲折はつづきました。ヒメネス神父の写本もまた、その後所在が分からなくなります。

 

[1941年]

シカゴの図書館で再発見。

いま広く読まれているのはそのキチェ語からのスペイン語訳であり、日本語訳はスペイン語からの重訳です。

 

キチェ族のもとで言葉を習得し、『ポポル・ヴフ』の原文と英訳を近年発表したクリステンソンは、こう言っています。

 

「キチェの人々は、『ポポル・ヴフ』を朗誦するたびに、まずお香を焚いて浄め、祖先に祈りを捧げてから、一字一句間違えないように読み上げる」。

 

文字や言葉のもつパワーに対する、畏敬の念がうかがわれます。

 

今日の我々にとって、文字のない社会は想像しにくいかもしれません。しかし文字ができたからこそ現代まで神話が残り、翻訳も可能になったのです。もちろん、文字化されるまでの長い間、口伝えで引きつがれてきたのも事実です。それはやはり、人間が聖なる物語を必要とするから、ではないでしょうか。

 

 

【プロフィール】

山田 仁史

東北大学大学院文学研究科准教授

宗教民族学の立場から、人類のさまざまな神話や世界観を研究中。

著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)がある。

ブログ「buoneverita」

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