2015年07月07日
  東北大学コラム

【結晶は生きている】第2回 天からの手紙

東北大学大学院理学研究科 客員研究者  塚本勝男

 

結晶は原子や分子の粒子が規則的に並んだ物質を指す。

 

その規則性に従って、結晶の形は左右される。たとえば、食塩ならば立方体、雪の結晶ならば六角形になるのが原則。しかし、結晶が育つ外的な環境の変化によっても、千差万別の形をとる。

 

1936年に人工雪を初めて作られた北海道帝国大学中谷宇吉郎教授は、“雪は天から送られた手紙”であると言われた。雪が育つ温度や湿度によって千差万別の形をとるので、逆に、降ってきた雪の形を調べることで上空の気象条件が分かる。

 

なぜ、結晶の形は成長する条件により多様な形をとるのであろうか。

 

イスラエルの研究者と死海の塩水を採取して、天然の塩の形の変化を調べるために結晶を育てたことがある。結晶はその周囲から塩分を取り込みながら大きくなる。

 

そのために結晶の周りの塩濃度が下がり、特別な光学装置で観察すると資料②のような塩分濃度分布が地図の等高線のようにできる。よく見ると、結晶の角のところは中央部に比べると濃度が高い。そのために、結晶は角が突出しようとするが、結晶は表面積を増やしたくないので平面を維持する。

 

ただ、あまりに濃度が高くなりすぎるとバランスが崩れるため、平面で囲まれていた結晶の角が突出し、曲面で囲まれた樹枝状の結晶に形を変える(資料③)。

 

曲面で囲まれることで結晶の表面積が増え、結晶はすみやかに周りから塩分をとりこめることになる。つまり、塩分濃度が上がりすぎると、結晶は“努力”して自ら形をかえて、表面積を増やし結晶周囲の濃度の上昇を抑えているのである。

 

小さな結晶の集まりでできているアイスクリームやチョコレートも結晶の形や大きさを変えることで味や感触も変わる。

 

クスリの結晶は樹枝状になれば速やかに溶けて早く体に吸収される。

 

触媒の結晶は形を変えると表面積が変わり触媒の効果も変わってくる。

 

このように結晶の形の制御は、私たちの生活の向上のための重要な技術にもなっている。

地上で結晶を作る限り、重いものは沈み軽いものは浮く。そのため、結晶が成長すると、周りの塩分濃度が下がり密度差が生じる(資料④)。これは対流が生じてしまう大きな原因となる。対流は結晶の形を歪めたり不均質にしたりする原因にもなる。

 

この対流が生じない無重力で結晶をつくるとどうなるか。これが次の話である。

 

次回は「第3回 無重力の世界」です。

 

【プロフィール】

塚本勝男

東北大学大学院理学研究科 客員研究者/大阪大学大学院工学研究科 特任教授

結晶の成長プロセスを分子レベルで光学的に観察するのが得意。無重力での結晶成長研究に精通。2013年には結晶成長の基礎研究に対して日本人として初めてフランク賞を受賞。趣味は音楽鑑賞、海外旅行、温泉巡り。

 

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