2015年07月10日
  東北大学コラム

【結晶は生きている】第5回 地球の常識、宇宙の常識

東北大学大学院理学研究科 客員研究者 塚本勝男

 

超スローな結晶成長もあれば、超高速な結晶成長もある。

 

前回、氷が成長すると潜熱をだすことを話題に。ゆっくりした成長では、この潜熱はすぐに発散してしまいあまり問題とはならない。しかし、さらに急速な成長ではどうであろうか?

 

地球などの惑星ができたのは46億年前の昔。原始太陽系を形成する円盤状のガス星雲から惑星のもとになる微粒子や微結晶ができたのがそのころである。

 

その当時できた結晶は隕石や“はやぶさ”が回収した試料にも含まれている。資料①は隕石の断面を見た顕微鏡写真である。

 

 

ここにはコンドリュールといわれる約1ミリ径の球状の結晶粒が多数見られる。この結晶が融ける温度は1900度程なので、コンドリュールは高温液滴が天文学的な時間をかけてゆっくり冷えながらできたと考えられてきた。

 

一方、私たちは無重力空間での結晶のできかたを研究してきた。地球上で容器内のコンドリュールが融けた高温液体から結晶を作ろうとすると、結晶が融ける温度よりわずかに低い温度で結晶化がおこる。

 

しかし、その高温の液体を下からガスジェットで浮かせて冷却すると、さらに数百度もの温度を下げても結晶化しないことに驚く。

 

 

浮遊しなが冷却しつつ結晶化させると潜熱の発生により再び白熱する。

温度履歴は資料③。

 

しかし、コンドリュールの結晶化が始まると、毎秒数センチもの超高速度で結晶が成長し1秒前後の短時間で結晶ができてしまう。これは従来の説とは雲泥の差。

 

この短時間に放出される潜熱は凄まじいものがあり、できた結晶の一部を再び融かしてしまうこともある。これまで冷えて暗くなった液滴は、この潜熱の発生で再び明るく輝く。

 

これは地球の常識と宇宙の常識が大きく違う例である。特に宇宙での無重力空間では熱の逃げを助ける対流がないので、熱の影響は計り知れないであろう。

 

一方、結晶化をうまくコントロールして潜熱を利用すると、実生活の暮らしを豊かにすることも考えられる。

 

例えば、昼間に融けた結晶を夜に放出するビル暖房。真冬に冷えた車を急速に暖めることも出来よう。あるいは、その熱の放出を利用して結晶の形を自在に変えながら新たな機能性を持たせることも考えられる。

 

このシリーズのまとめ:

人間は高品質な半導体結晶など何でも作れると考えがちである。しかし、地上からたった300キロ上空の無重力空間でさえ、結晶の成長をうまく制御するのが難しい。

 

製薬に必要な生体を構成するタンパク質の結晶化もほんのわずかしか成功していない。これは、結晶がどのように出来るかを未だ十分に理解していないからである。

 

この分野には、名城大学の赤崎勇先生が昨年受賞されたようなノーベル物理学賞に匹敵する研究テーマがまだまだ散在しているように思える。

 

 

【プロフィール】

塚本勝男

東北大学大学院理学研究科 客員研究者/大阪大学大学院工学研究科 特任教授

結晶の成長プロセスを分子レベルで光学的に観察するのが得意。無重力での結晶成長研究に精通。2013年には結晶成長の基礎研究に対して日本人として初めてフランク賞を受賞。趣味は音楽鑑賞、海外旅行、温泉巡り。

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