2015年07月06日
  東北大学コラム

「結晶は生きている」第1回 100万年かけて成長した巨大結晶

東北大学大学院理学研究科 客員研究者   塚本勝男

ある日、スペインの友人から、「メキシコのナイカ鉱山の洞窟には、10メートル以上の長さの世界最大の巨大なセッコウの結晶が乱立している」と聞いた

海外の研究者は中に入ったことがあるが、日本人の研究者は訪れたことはないとのこと。

私は、その巨大結晶が、いつ、どのように育ってきたのか興味をもった。

日本から飛行機を乗り継いで24時間以上。近くのチワワ国際空港についたのは夕暮れ時。これからタクシーでナイカ鉱山まで2時間ほどで行けるが、夜は治安が悪く銃撃の標的にされたくないので次の朝に行くことにした。

次の日に鉱山に到着して早速地下300メートルに。

鉱山の中は気温55度、湿度100%、中に入った途端、眼球さえ曇る過酷な環境で、息をするのも想像を絶する苦しさ。15分で戻らないと命の保証はないと何度も言われたが、上下左右、見渡す限り、太いセッコウの結晶が乱立するジャングルに私は見とれてしまった。

この巨大結晶がどれほどの時間をかけて成長してきたかは興味がある。

精密機械を洞窟に持ち込むわけにはいかないので、小さな結晶とそこの鉱水を採取した。

それらを東北大学の研究室にもちこみ、自慢の超高感度な光学装置で結晶の育つ速度を測った。ナイカ鉱山の環境を再現すると、結晶が10メートルに育つにはなんと100万年かかる。こんなにゆっくりした成長速度は世界のだれもが測ったことがないではないか!

100万年もの間に結晶を一定の速さでゆっくり成長させるには、鉱水を一定温度に保っておく必要がある。それには熱源が必要である。突然、火山の寿命は100万年程度であることを思い出した。地下には高温のマグマだまりがあり、それが地下水をあっためる熱源となり、水の温度を100万年にわたって一定に保っていたのだろう。ということは、地球上で最大の結晶ということにならないか。

このような巨大結晶はもちろんのこと、ダイヤモンドなどの宝石、雪や氷、コンピュータに必要な半導体、治療に必要な薬品、体を作っている骨や歯、インフラに必要な金属や骨材、料理に必要な調味料やアイスクリームやバター、チョコレートなど、生活と密着する物質の大部分は、原子や分子の粒子が規則的に並ぶことでできる結晶でできている。これらの結晶がどのようにして成長していくかをこのシリーズで眺めてみることにしましょう。

 

次回は「第2回 天からの手紙」です。

 

【プロフィール】

塚本勝男

東北大学大学院理学研究科 客員研究者/大阪大学大学院工学研究科 特任教授

結晶の成長プロセスを分子レベルで光学的に観察するのが得意。無重力での結晶成長研究に精通。2013年には結晶成長の基礎研究に対して日本人として初めてフランク賞を受賞。趣味は音楽鑑賞、海外旅行、温泉巡り。

 

 

 

 

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