2018年01月25日
  東北大学コラム

日記からみた江戸時代 第1回 筆まめな人々

東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門 准教授   荒武賢一朗

第1回 筆まめな人々

このコラムを御覧になっているみなさんは、スマホを自由に使いこなし、指先ひとつでさまざまな情報にふれておられると思います。私はヘビーユーザーではありませんが、それでもメールを送る、ニュースサイトの記事を読む、お店を調べる、道に迷ったときの「救世主」(これはよく使います)、といったようにずいぶんとお世話になっています。

 

私は江戸時代を中心に歴史の研究をしているのですが、それに欠かせないのは当時の人々が書きのこした日記や手紙などの書類です。これらは「古文書(こもんじょ)」と呼ばれていますが、200年ほどの前に生きた人々が筆と墨を使って書いた記録は重要な証拠になります。

 

研究を始めてから20年ほどになりますが、日本各地の古文書を調査して感じることは、むかしの人たちはたくさん文字を書いている、という一言につきます。もちろん「筆まめな人」ばかりではありませんし、書かれたノートがすべてのこっているわけではないので、あくまで私の印象に過ぎません。しかし、新聞・テレビ・パソコン・携帯のない時代に、身の回りのみならず、遠く離れた地域の事件などを詳しく紹介する文面にはただただ驚くばかりです。

 

コラムのメインタイトル「日記からみた江戸時代」でお分かりいただけるように、ここではみなさんに「むかしの日記」を手がかりに、古文書や歴史のおもしろさをご紹介していきます。

【写真1:江戸時代の大坂商人・井上淡水の日記】

 

さて、それでは21世紀に暮らす私たちはどれだけ「手書き」の文字を書いているでしょうか。お店や役所で自分の名前を書くぐらいは結構あるかもしれません。仕事で毎日ペンを持つ方もいるでしょうが、ただしそれ以外では?と考えてみると、意外に少ないのではないでしょうか。

 

先日、ある学生さんとお話しをしていると、ちょっとした用事についてはスマホでメモを取るのだと語っていました。小学校からパソコンやタブレットを利用する時代だから、当然のことかもしれません。

 

東北大学では2年に1度、「片平まつり」というイベントをおこなっています。これは東北大学の研究所がそれぞれの専門分野について紹介し、子どもから大人まで科学に親しんでもらおうとする企画です。

 

私の所属する東北アジア研究センターでは「くずし字を書きましょう」というコーナーを設けています。おもに小学生・中学生を対象にしていますが、ご自分の名前を江戸時代の「くずし字」で書いてみる(書けたら賞状がもらえる)、という変わったチャレンジです。

【写真2:東北大学片平まつり2015「くずし字を書きましょう」】

 

このコーナーを楽しみにやってくる子どもたちと接していると、「文字をいっぱい書きたい」とか、「歴史の勉強に興味がある」といった、大変うれしい意見を聞きますし、筆ペンを上手に使う姿に感心しています。その一方で昭和生まれの私たちとは違い、現在の小学生が「筆・ペン・エンピツ」を持つ機会が少ないことにも気付きます。人それぞれ限られた時間のなかで、やるべき勉強や遊びがあるので致し方ないところです。

 

子どもたちと同じように大人も「文字を書くチャンス」がありません。お正月には年賀状のやりとりをする機会も多いですね。私も年末になると(間に合わないとしばしば年始にも)、いつも大急ぎで書いています。知り合いからいただく年賀状は、パソコンで見事なデザインがつくられ、きれいな写真が添えてあるなど、色とりどりの個性的な「作品」が目につきます。

 

それらを「文字好き」の目線で読んでいくと、差出人の署名や宛先もすべて印字になり、手書きのコメントが年々減っているように感じます。スマホやパソコンが故障してしまうと、家族や友達の電話番号もわからない、というのも納得です。

 

私たちが暮らす現代社会と、江戸時代の人々にはどのような違いがあるのか。それを日記や古文書を通じていろいろと考えてみよう。それがこのコラムのねらいでもあります。

 

次回は「江戸時代のお正月」をテーマにして、みなさんを歴史の世界へご案内します。

 

プロフィール

荒武 賢一朗(あらたけ けんいちろう)

東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門 准教授

日本近世史・経済史専攻。江戸時代の経済や社会を古文書から分析する。地域で大切に守られてきた歴史資料を保全し、未来への継承を目指している。

※所属等は取材当時のものです。

関連記事

新着記事