2017年10月30日
  東北大学コラム

【遺伝学から見た食卓革命】第3回 すごい「トウモロコシ」の作り方

東北大学大学院生命科学研究科 教授 渡辺正夫

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年8月19日掲載

 

はじめに

よりおいしい野菜や果物を食べたいというのは、人類が農耕を始めて以来の望みです。

つまり、品種改良の歴史はかなり古いものであると言えます。

 

一方、見方を少し変えれば、人類が植物を栽培化して「作物」とした時から、作物は特定の方向に強く選抜がなされてきたことになります。

 

トマトを例に挙げると、栽培が始まる前の野生種では、果実も小さく、酸味も強く、種子が入る部屋の数(心皮)も少なかったとされています。

それが、人類による栽培化・品種改良に伴い、現在のような大きい形態となり、食味も改善され、果色も多様で病気に強く、栽培しやすいものに改良されてきました(図1)。

 

自然選択により「進化」してきた植物に対して、人類が特定の方向に強い選抜圧をかけるという点では、農耕に伴う栽培化や品種改良も生物の進化の一側面であると言えるでしょう。どれだけ強い選抜が特定の方向にかけられたのか、という違いだけではないかと思います。そう考えれば、栽培化を理解し、作物の進化を解明することは、興味深い研究課題であるとも言えます。

 

自家採種と品種改良

栽培化、品種改良が進化と同じ側面を持つことは前述の通りですが、現在の食卓に並ぶような多様な野菜や果物の品種が登場したのは20世紀に入ってからで、品種改良技術の進歩によるところも大きいと言えるでしょう。

 

著者が子供時代(1970年頃)すでに、後述する優れた品種が畑で栽培されており、市場へ大量の野菜を出荷する農家では、種子を種苗会社から購入して播種していました。

 

一方で、農家であっても自宅だけで消費するような作物のいくつかは、自家採種して保存し、翌年それを播種すると言う形態をとっていました。このことは、種子を購入するコストを下げたい、という意識があったからも知れません。

 

自家採種した種子と、市販されている品種改良された種子の差異をまざまざと見せつけられたのが、「トウモロコシ」だったように思います。

 

自家採種種子からできたトウモロコシは、結実した種子の大きさがばらばらで、全てが結実していない状態でした。一方、市販の種子から栽培したトウモロコシは、大きく、柔らかく、甘みも強く、全てが結実しているという違いがありました(図2)。

 

こうした「自家採種種子由来の野菜」と「市販の種子由来の野菜」にはどの様な違いがあるのでしょうか。著しい食味の差異はどのようにもたらされるのでしょうか。

 

品種改良の意義

品種改良の第一歩は、特定の集団からより良いものを選んで種子を取り、栽培することを繰り返すことで、より良い形質(遺伝的性質)を持った種子の集団を選抜することです。

 

これは従来から、自家採種する際にも大切にされてきた基本コンセプトと言えるでしょう。現在のように種苗会社由来の種子を農家・家庭菜園などで利用する事が一般的になる以前は、個人や集落単位で集団を選抜することで、地域毎に品種改良が行われてきました。この選抜により、良いものも残ると同時に、少しずつ集団が均一になります。

 

集団が均一になることには、欠点と利点の両面があります。欠点としては、集団が均一すぎて、その作物が特定の病害虫に対して弱いときに病害虫によって全滅する可能性があることです。また、集団が均一になりすぎることで近交弱勢(第5回で詳細を記述、そちらを参照)が起こり、収量の低下などが起こる事も考えられます。

 

集団が均一になることの利点としては、収穫物の大きさや形などがそろう事です。作物を栽培する農家の立場から考えれば、同じ時に播種し、一定の肥培管理を続けることで、一度に出荷できるため効率よい農作業ができます。生長が揃わなければ肥培管理が一定せず収穫場所がその日によって違うことになり、管理が大変になる可能性があるのです。

 

一代雑種育種法

このそろいの良さをさらに高めた品種育成法が「一代雑種育種法」です。遺伝的に固定された両親を用いた場合、雑種第一代(F1)の種子が必ず均一な形質を持つ事を利用した品種育成法です。これを自殖して得られた雑種第二代(F2)は遺伝的に分離を生じるため、この育種法によって得られた種子を利用する場合は、種苗会社などが育成した種子を買い続ける必要があります。

 

また、雑種第一代には両親のそれぞれの形質よりも、さらに優れた性質を示す「雑種強勢(補足参照; http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/news2/2015/08/12153907.php」と言う現象が現れることがあり、前述のある程度均一なものを生産できる種子を自家採種するよりも、収量や耐病性で優れているという側面もあります(図3)。

 

つまり、種子の購入経費よりも生産性が上がれば、この「一代雑種育種法」で育成された種子を購入して、栽培することの方が農業経営的にも優れていることになります。

おわりに

今回は、いかに人類が品種改良をしてきたのか、その過程において、そろいの良いものにするためには、どの様な手法が取られたかと言うことで、「一代雑種育種法」に主眼をおいてお話ししました。この手法は基本、野菜類の品種改良で実用化されているものであり、果樹のような果実が採れるまでに年数がかかる樹木には適応できません。

 

次回は、果樹のような樹木で新品種ができたとき、それをどの様に広めるのかというようなことを含めて、農作物のクローン技術について、お話ししたいと思います。

 

【豆知識】

地方在来種の意義

本編で記述した収量増加や耐病性を経済的に追い求める品種改良の一方で、地方に昔からある「在来種」も見直されつつある機運が高まってきています。

 

その代表例は「京野菜」でしょうか。壬生菜(みぶな)、海老芋(えびいも)、聖護院蕪(しょうごいんだいこん)、万願寺唐辛子(まんがんじとうがらし)など、昔から京都で栽培されていた在来種は、上記のような「一代雑種育種法」による揃った種子ではありません。

 

そのため栽培が難しく、一時は栽培が縮小した時代もあるそうです。しかし、京の伝統料理には欠かせない野菜であるため、京都府が1987年から指定制度を設け、生産者・消費者の連携により現在の地位にまで成長しました(図4)。

 

同じく、「加賀野菜」や「江戸野菜」などが見直されており、それぞれの地方が有している昔からの文化や伝統が「在来種」とともに再評価されていることの現れだと思います。そうした観点で、各地方の在来種を探索することが、地方再生における農業的側面からの1つの方策になる可能性は十分あると考えます。ここ宮城県仙台市でも「仙台伝統野菜」として、仙台白菜、仙台曲がりネギ、仙台長なす等を位置づけ、改めて普及に取り組んでいます。

 

【補足】

雑種第一代(F1)に見られる、両親の形質よりもすぐれた継室が現れる現象を「雑種強勢」(http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/news2/2015/08/12153907.php)と呼びます。この項目については、渡辺の研究室のHPに補足として、説明してあります。あわせてご覧ください。

 

【プロフィール】

渡辺 正夫 (わたなべ まさお)

東北大学大学院生命科学研究科教授

1984年愛媛県立今治西高等学校卒業。1991年東北大学大学院農学研究科中途退学。1991年東北大学農学部助手。1994博士(農学)。1997年岩手大学農学部助教授。2005年東北大学大学院生命科学研究科教授(現職)。

アブラナ科植物を材料(カブ、ハクサイ、キャベツなど)として、自家不和合性の自他識別にどの様な遺伝子が関わり、この現象を機能させているのかについて、30年近く研究。研究成果は、Nature, Scienceをはじめ、100編以上の論文として発表。この自家不和合性研究が評価され、2011年日本学術振興会賞受賞。平行して、小中高でのアウトリーチ活動を700回以上実践、継続中。

趣味は、旅行、読書(歴史関連本)、サッカー観戦。

 

 

 

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