2017年10月30日
  東北大学コラム

【遺伝学から見た食卓革命】第4回 食卓に並ぶ農作物のクローン技術

東北大学大学院生命科学研究科 教授 渡辺正夫

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年8月20日掲載

 

はじめに

庭の手入れをしていて、雑草を何度抜いても生えてくることに、お困りではないでしょうか。

 

植物の種類によっては、生えている植物体を除けば、それでおしまいということが多いですが、中には地面の中で「地下茎」を形成して、どんどん増えていくという植物種もあります。スギナ、ドクダミなどがその一例です(図1)。

 

タケ・ササも同様で、地下茎を伸ばすことにより「クローン」として増殖するため、防除が難しいと言われています。このように、植物では「クローン」として増殖する例も希ではなく、それを農林業に活かしている側面もあります。

 

先ほどのタケ・ササは100年位に一度、開花して、その後はその周辺の個体全てが枯れるということを耳にした事があるかもしれません。これは、前述のように個体が「地下茎」で繋がっている為、どこかで開花した、という情報が発生するとクローン全体にその情報が伝わるためです。結果、周辺全体で花を咲かせて、そのクローン集団が終わりを迎える、世代交代をするということになるわけです。

 

果樹の育種法

植物は「クローン」で殖やせる、という利点を農作物の栽培では、どのように活かしているのか、果樹を例に説明したいと思います。

 

木本である果樹の品種改良にかかる年限は、草本のイネなどから比べると非常に長いものです。また、前回書いたような「一代雑種育種法」を果樹に適用するためには、まず両親となる系統を遺伝的に純粋になるように選抜する必要がありますし、その後、どの組合せが雑種強勢を発現するか調べることが重要になります。

 

しかし、ここで大きな問題となるのは、果樹の場合「桃栗三年柿八年」と言うように、結実までに長い年月が必要になるということです。両親の選抜から雑種第一代(F1)の評価までには、何十年を要するか分かりません。

 

ですので、果樹の品種改良では両親を純系にする「一代雑種育種法」を用いることはなく、今までの優良品種が有している形質を評価し、両親に由来する優良形質を持った雑種品種を育成・評価することが主眼となります。

 

ここで言う「品種」とは、特定の両親に由来する、ある一個体のことです。実際、リンゴ品種「ふじ」は品種「デリシャス」の花粉を品種「国光」の雌しべに交配してできた、たくさんの実生(みしょう)から、選抜されてできたものです(図2)。

 

こうしてできた新品種の樹木を「原木」と呼びます。以下に述べるような「接ぎ木」という繁殖形態で増やしますが、最初の木は一本から始まっていると言うことを意味します。

 

 

4-3. 果樹の接ぎ木増殖

こうした目標を持って育成された品種を、より多くの農家で栽培してもらうために原木から枝を切り、挿し木や接ぎ木で「クローン」として増殖します。これが、果樹栽培・林木生産の現場では重要になってきます。

 

最近では、接ぎ木をしてから果実生産するまでの年限を短縮するために、従来の品種の樹木に別の品種を接ぎ木する「高接ぎ」による品種更新が多くなりました(図3)。

 

このように挿し木や接ぎ木の技術を使うことで、リンゴ優良品種の「ふじ」は日本中で増殖され、現在では国内生産量50%を超える品種となっています。

 

この背景には、「ふじ」が食味・保存性などで高い評価を得ているだけでなく、前述のように、果樹の品種改良には長い年限がかかり、簡単に品種更新ができないことにもよります。

 

実際、「ふじ」の育種・品種改良が始まったのは戦前の昭和14年であり、「ふじ」として命名され、品種登録されたのが昭和37年と言われています。交配から20年以上先に、市場で評価されるであろう品種を選抜しなくてはならない訳です。

 

これに関わる「育種家の眼」がどれだけ優れているかを示す好例と言えます。言い換えれば、現在、育種・品種改良されている果樹品種は、現在からさらに20年後の将来を見すえて改良が進められており、どの様な品種が市場で求められるかを考慮されて改良されているのだと言えるでしょう。

 

おわりに

ここまで紹介してきたように、農作物の「クローン」は古来から使われている技術です。近年はバイオテクノロジー技術の1つである「組織培養技術」を通じて、洋ラン苗の大量増殖も可能となり、その市販価格も手ごろになりつつあります。

 

一方、家畜を含む動物の「クローン」技術は近年発達したものであり、倫理的側面も存在していることから、農作物のように簡易に利用できません。農作物の品種改良の中でも、こうした「クローン」で増殖しない「種子繁殖」での育種については第3回でも述べてきましたが、その背景にある花粉と雌しべの相互作用については次回、本シリーズの最終回にて触れたいと思います。

 

花粉と雌しべはどの様な相互作用を経て種子形成に至るのでしょうか。また、その相互作用をどの様に利用して、人類は品種改良を行っているのでしょうか。農作物の品種改良の根底に流れる科学的側面を紹介することで本シリーズを締めたいと思います。

 

【豆知識】

植物における多様なクローン増殖

本編で紹介した果樹以外にも「クローン」として増殖するものには、サツマイモ・ジャガイモ・サトイモという「イモ」のたぐいがあります。サツマイモは肥大した根である「塊根」、ジャガイモ・サトイモは地下茎である「塊茎」を食しています。つまり、茎または根が肥大したものが食用となるわけです。

 

この「イモ」を植えることで同じ個体を増殖できますが、サツマイモの場合は「イモ」から芽を出させ、それを挿し芽することで増殖することが一般的だと思います。ちなみに、サツマイモ・ジャガイモ・サトイモを意味する漢字は、それぞれ、「藷(甘藷)」・「薯(馬鈴薯)」・「芋(里芋)」というように使い分けされています。

 

果樹、いも類以外にクローンとして増殖する作物に「イチゴ」があります。イチゴの場合には「匍匐茎(ランナー)」と呼ぶ、地面近くを這って伸びる茎の節から新しい植物体が形成されます(図4)。その匍匐茎を個別に移植することで増殖が可能となり、「クローン」として栽培できることになります。

【補足】

近年、リンゴでもふじだけでなく、多様な品種がスーパーなどの店先で見つけることができるようになりましたが、柑橘類でもこれまで見かけなかった新品種が出荷され始めています。この新柑橘品種については、「多様な柑橘品種の育成」(http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/news2/2015/08/12155750.php)という項目で、渡辺の研究室のHPに補足説明してあります。あわせてご覧ください。

 

【プロフィール】

東北大学大学院生命科学研究科教授

1984年愛媛県立今治西高等学校卒業。1991年東北大学大学院農学研究科中途退学。1991年東北大学農学部助手。1994博士(農学)。1997年岩手大学農学部助教授。2005年東北大学大学院生命科学研究科教授(現職)。

アブラナ科植物を材料(カブ、ハクサイ、キャベツなど)として、自家不和合性の自他識別にどの様な遺伝子が関わり、この現象を機能させているのかについて、30年近く研究。研究成果は、Nature, Scienceをはじめ、100編以上の論文として発表。この自家不和合性研究が評価され、2011年日本学術振興会賞受賞。平行して、小中高でのアウトリーチ活動を700回以上実践、継続中。

趣味は、旅行、読書(歴史関連本)、サッカー観戦。

 

 

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