2018年01月23日
  東北大学コラム

【仙台は起業の街になりうるか?】第3回 災害の後は起業家が増える:ニューオーリンズの復活の事例

東北大学大学院 経済学研究科 教授 福嶋 路

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年11月4日掲載

 

大災害の後、起業家活動が活発化するという現象は、過去の事例にも多くみられる事象です。例えば、2001年9月11日のテロの後のニューヨーク、2005年のハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズのなどがそれです。

 

ニューオーリンズは2005年にハリケーン・カトリーナに襲われ、今年で復興10年目を迎えます。カトリーナ以前のニューオーリンズは、石油産業、観光産業、造船産業などが主要産業でした。また、ニューオーリンズは多くの課題を抱えた街でした。

 

ジャズや観光で明るい街ではありましたが、政治の腐敗・汚職がはびこり、教育の質は全米の最低ラインをさまよい、かつては雇用を提供する大企業はありましたが徐々に流出していきました。それに伴い、若者の多くはニューオーリンズを捨てて他の地域に流出していきました。そんな中、2005年にカトリーナが発生し、街の80%が浸水し経済も大打撃を受けました。ところがそれから10年後の2015年、ニューオーリンズは現在、起業の街として全米で認知を高めつつあります。さてこの10年間、何が起こったのでしょうか。

ニューオーリンズでは、被災前から起業家を支援する活動が行われていました。ニューオーリンズ出身の起業経験者たちが1999年からIdea Villageと呼ばれるNPOを結成し、地域を変え、起業を増やそうと努力をしていました。その活動がはじまって4年後の2005年にハリケーン・カトリーナが襲来したのです。

 

ニューオーリンズは壊滅的な被害を受け、多くの住民がニューオーリンズを去りました。その多くは貧困者層であったと言われています。

 

他方で連邦政府から多額の復興予算がつけられ、義捐金も流入しました。また被災企業を支援するために被災地にこそ社会問題を解決する機会があるとチャンスを求めて意欲溢れる起業家たちが流入してきたのです。そのような人々の受け皿となったのがIdea Villageでした。

 

震災直後、Idea Villageは被災企業に再建に手を貸そうとしてやってきた全米のMBAの学生たちを被災企業に紹介するという仕事をはじめます。MBAの学生たちは、無償で被災地企業の相談にのり、補助金の申請の支援、再建計画の作成、そして今後の戦略策定のお手伝いをし、被災企業の復活に一役買うことができました。

 

その後、Idea Villageは自ら本格的な起業家教育にも乗り出します。毎年、8月から3月を「アントレプレナー・シーズン」と定め、半年間にわたって、起業の基礎から実践にわたる教育プログラムを提供しています。

 

その対象は、起業を考えたいという一般市民から、すでに事業を始め資金調達をしようとしている玄人の起業家まで広範に及びます。半年間の教育プログラムのあと、その成果は、3月に開始される「アントレプレナー・ウィーク」という一週間にわたるイベントで締めくくられます。

 

その中で行われる多数のビジネスプランコンテストでは多数の起業家(予備軍)がIdea Villageの指導を受けながら磨き上げてきた事業計画をそこで披露し競いあうのです。このイベントは一般市民も参加できるものになっており、ニューオーリンズの有名なお祭りのマルディグラと並ぶ、市民を巻き込んだ一大イベントとして定着しつつあります。

Idea Villageのプログラムに参加した人々の中から何人かの成功企業が出始めています。2009年に設立されたKickboard(元の名前はdrop the chalk)は、Jen Schnidman Medberyさんによって設立されました。コロンビア大学コンピューターサイエンス学科出身のメドベリーはカトリーナの後、2008年に教育支援NPOであるTeach for Americaの数学の教師としてニューオーリンズの高校の教壇に立ちました。このとき、自分の専門のIT技術を使えば、教室でリアルタイムに学生の情報を収集・分析し教師はそれを見ながら学生に適切な指導ができるのではないかと思いついたのがKickboardのビジネスのはじまりでした。

 

MedberyはIdea Villageのプログラムに参加し、スタンフォードのMBAの学生の支援を受けながら、Kickboardのビジネスモデルを洗練化していきました。その結果、彼女は複数のビジネスプランコンテストに優勝し、多額の賞金をもらい、事業をスタートすることができました。現在、Kickboardのサービスは現在、全米の20州200の学校で導入されているといわれています。

 

ほかにも家事代行サービスを提供するOccasional Wife, 移動式レストラン(pop up restaurant)サービスを提供するDinner Lab、栄養が偏らないヘルシーなピザを提供するNaked Pizzaなどといったいくつかの企業は、すでにニューオーリンズから飛び出し、全国展開を果たしています。

 

これらの中の多くはIdea Villageが主催するセミナーやプログラムに参加したり、ビジネスプランコンテストで受賞しています。

 

ニューオーリンズのスタートアップの特徴として、モノづくりやハイテクというよりは、地元で培われてきた南部の独特の文化を生かした飲食店、芸術系サービスであったり、社会問題として深刻だった教育関係のサービス、また予約システムやアプリ開発などのICT系サービスが多いようです。

 

起業家の属性も多様であり、全体的には若い人が多い傾向がありますが、性別、人種、職業などについては多様です。またカトリーナ直後は、ニューオーリンズ以外の地域から流入してきた若者による開業が多かったのですが、最近では、ニューオーリンズ近辺の大学を卒業した人々による起業が増えてきています。

 

次回は「第4回 起業家の集積が集積を生む」です。

 

【プロフィール】

福嶋 路

東北大学大学院経済学研究科教授

地域で活躍する企業の戦略、企業家の活動、企業家の活動を促進する社会的仕組みについて研究している。

編著に『ハイテク・クラスターの形成とローカル・イニシアティブ:テキサス州オースティンの奇跡はなぜ起こったのか』(白桃書房、2015年)がある。

趣味 旅行、温泉、刑事ドラマ・動物番組の鑑賞

※所属等は取材当時のものです。

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