2018年09月06日
  コラム

あなたのデータで医療を変える  希少疾患のゲノム医療研究開発

東北大学  東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム医療情報学分野 荻島創一 教授

 

希少疾患のゲノム医療研究開発

 

ヒトのゲノム情報の完全な解読と解読コストの大幅な低下を受けて、一人一人のゲノム情報を解読できる時代となり、個々人の体質にあわせた新しい医療、ゲノム医療の研究開発が各国で進んでいます。こうしたなか、研究開発には、個々人のゲノム情報、生活習慣・環境暴露情報、臨床情報が必要となり、患者・市民が自らこうした新しい研究開発に生体サンプルやデータを提供することが重要になってきています。

 

今回から3回に分けて、ゲノム医療の最新の研究開発の状況と、患者や市民からこうした研究開発へのデータ提供がどのように進んでいるかをご紹介します。

 

こうした新しいトレンドは、希少疾患領域、つまり、非常に珍しい病気の研究開発から始まりました。その病気にかかる人が少ないので、治療法の研究や薬の開発を進めようとしても、なかなかデータは集まりません。医学研究においては、少ない患者数のデータで研究するのでは信頼性が担保されないので、一定以上の患者数のデータを集める必要があります。

 

患者と医師・研究者の双方がこの問題を解決しようとしています。

患者とその家族は、同じ疾患を罹患する患者に声をかけて、患者登録をして患者レジストリを形成し、希少な生体試料やデータを医師や研究者に提供することが始まっています。寄付金を募って研究費を集め、研究費とあわせてデータを提供し、研究開発を促進することもあります。

 

米国で、こうした活動が始まりました。ハンチントン病の母をもったアリス・ウェクスラーさんは遺伝病財団を設立し、生体試料やデータを提供し、研究費を支援して、ハンチントン病研究を推進し、原因遺伝子を同定しました。米国では、このことを端緒として、こうした活動が広がってゆきました。

 

日本では、厚生労働省の支援でJ-RAREという患者による患者レジストリ、患者が自らの自然歴、服薬歴、日常生活等の患者主観のデータを登録し、あるいはQOL(生活の質)調査に参加するなどして、患者の希少なデータを医師や研究者に提供しています。自然歴とは、いつどのように発症し、年を経るにつれどのような症状が出てきたかというもので、患者にしか知りえない非常に重要な情報です。

 

一方、医師や研究者間は、国境を超えて、患者の生体試料やデータを共有することが始まっています。ゲノム医療・医学の促進を目指す対話の場となっているGA4GH (Global Health for Genomics and Health)では、Matchmaker Exchangeというサービスを立ち上げて、希少疾患の国際的なデータ共有の促進を進めています。

 

希少疾患の場合、その自然歴と、そもそもどのような症状があるのかということがよくわかっていないことが多いのです。同じ疾患であっても、さまざまな症状があることがあります。このため、患者が報告する患者自らの情報は非常に重要になってきています。個々人のゲノム情報の解読によって、遺伝型としてのゲノム情報が深いものになればなるほど、それにあわせて、表現型としての患者自らの病態についての情報もより深いものである必要がでてきています。

 

ところで、患者のデータの共有にあたっては、倫理的な問題に考慮する必要があります。まず、当然のことながら、患者の同意が必要です。ただ、その同意の背景には、患者によってさまざまな思いがあることがあります。その疾患の研究開発が進展することを願って、広くデータ共有してほしいと思う患者もいれば、普段、診察する«顔が見えている医師»の研究開発にデータを利用してほしいと思う患者もいます。

 

患者・市民がデータを研究開発に提供するにあたり、こうした患者の思いを反映し、そのデータの提供先をどこまでコントロールするのか、その仕組みを現実にどうつくってゆくのかが今後の課題となってきます。

 

 

プロフィール

荻島 創一

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム医療情報学分野 教授

東京大学工学部卒業、東京医科歯科大学大学院修了、博士(医学)取得。同大学助手・助教、ハイデルベルク大学 定量システム生物学研究所客員研究員を経て、現職。

東北の地にいち早く未来型医療を実現することを目指して研究中。

 

未知のなかば「未知先案内人」 第5回 情報を土台に未来を支える

http://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/michi/14083

※所属等は取材当時のものです。

関連記事

新着記事