2017年11月20日
  コラム

ケータイからゴールド

東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻 教授  田中秀治

私が持っている金の延べ棒は、重さ約13 kg、約6500万円!写真①には写っていませんが、隣にガードマンがいます。この金は何から採れたものでしょうか。実は、電子機器のスクラップから採れたものです。

写真① 金の延べ棒を持つ著者

電子機器の内部には、電子部品が載せられ回路を構成するプリント基板(写真②右)が入っています。私はこのプリント基板に載っている部品の1つであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる「小さな機械」を研究しています。スマホの画面が正しい向きに表示される機能、カメラの手ぶれ防止、万歩計機能、そして“LINE”の「ふるふる」もMEMSセンサーのお陰です。大きさは数ミリ角。スマホのプリント基板上に載っている黒い部品のいくつかはMEMSです。

写真② 黒鉱(左)とプリント基板(右)

MEMSに限らず、電子部品を作製するのに、金は欠かせません。金は錆びず、比較的柔らかくてくっつきやすく、しかも電気をよく通すので、電気接点や配線に使われます。だから、電子機器のスクラップの中でもプリント基板には金がたくさん含まれていて、価値があるのです。ざっくり言って、1 tあたり100 g前後の金が含まれているそうです。秋田県でよく採れた黒鉱(くろこう)(写真②左)の金含有量はよくても1 tあたり10 gくらいですから、桁違いに多くの金が含まれていると言えます。

 

さて、冒頭の金の延べ棒は、十和田湖の西側、秋田県小坂町にある小坂製錬で生産されたものです。写真③は小坂製錬の旧社屋で、明治38年に建てられた白亜の洋館です。どうしてこのような華麗な洋館が山間の小さな町にあるのでしょうか?

 

小坂町には、かつて日本一の銀山、その後は銅山であった小坂鉱山がありました。大正時代には、小坂町は3万人とも5万人とも言われる実人口をかかえ、当時最先端のインフラを誇る「山間の近代都市」でとして栄えました。平成2年に閉山するまで、そこで採れる黒鉱から銅、鉛、貴金属などが生産されていたのです。

写真③ 小坂鉱山事務所

この黒鉱は、別名、複雑硫化鉱とも呼ばれ、亜鉛、鉛、銅、銀、金などと多くの種類の金属を含む鉱石です。その複雑さゆえに、製錬(鉱石等から目的金属を取り出すこと)は容易ではありません。小坂鉱山は黒鉱の製錬技術を100年以上前に開発し、長きにわたって発展させてきました。必要なものを取り出せば、不要なものが残るのが自然の摂理です。だから、不要なもの、つまり廃棄物を責任もって処理・処分・管理する能力も製錬には必要です。これらの技術や能力をもって、小坂鉱山は100年以上にもわたって、産業の基盤を担う事業を続けてきたのです。

 

冒頭の話に戻ると、廃プリント基板は様々な成分を含む「超複雑鉱」とも言え、そのリサイクルには小坂鉱山が積み重ねてきた技術が活きています。このことが廃プリント基板からの貴金属回収が「都市鉱山」と言われるゆえんです。金の延べ棒は重かったのですが、小坂製錬(写真④)を見学した後ですから、「100年の重み」もあったかもしれません。

写真④ 小坂製錬

写真②の旧小坂鉱山事務所は、今は博物館になっていて、かつての小坂鉱山と小坂町の繁栄を詳しく知ることができます。近くには明治時代に建てられた現役の芝居小屋「康楽館」(写真⑤)、旧小坂駅を利用した「小坂鉄道レールパーク」などもあり、明治モダンや大正ロマンを感じることができます。

 

来年の旅行先の候補にストーリー性のある素敵な町、小坂町はどうでしょうか。十和田湖・奥入瀬とセットでお薦めです。

写真⑤ 康楽館

 

【プロフィール】

東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻 教授

1999年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了

1999年 東北大学助手

2001年 同講師

2003年 同助教授

2013年 同教授

スマホや自動車にセンサーとして広く使われている小さな機械=MEMS(メムス)、そのための材料や製造技術、それを用いたアプリケーションなどを研究。機械工学の講義の他、近代技術史の講義も担当。

研究室ホームページ http://www.mems.mech.tohoku.ac.jp/index.html

 

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