2017年07月03日
  まなぶひと

まなび情報誌「まなぶひと」 2017年7月号

まなぶひと 7月号特集

東北大学附属図書館 狩野文庫 ―礎の文庫―

東北大学附属図書館は、国宝を2点収蔵していることを ご存知だろうか。それぞれ中国と日本を代表する歴史書「史 記(孝文本紀 第十)」と「類聚国史(巻第二十五)」の、我 が国最古の写本である。

いずれの国宝も、もとはある個人のコレクションの一つ であった。狩野亨吉。秋田県大館市出身で、第一高等学校の校長、そして京都帝国大学文科大学の初代学長を務めた人物だ。東北大学附属図書館には彼の旧蔵書、約108,000 冊が「狩野文庫」として収められている。

古典資料書庫内

 

東北帝国大学の初代学長澤柳政太郎は、亨吉と中学時代 からの親友であった。開学当初、人文系の学部がいまだ開設されていなかったころ、法文学部の設置構想を練っていた澤柳は、亨吉の蔵書をその学問の礎とすべく、彼にその 蔵書を譲ってくれるよう働きかけた。  亨吉の好意により評価額の1/3程度の金額が示されたものの、その額は3万円。現在の価値からすると数千万円にも及ぶ。澤柳は懇意の議員に働きかけ、なんとかその購入 額の寄附を得るに至った。

亨吉が蔵書を寄贈するにあたり出した条件は、自分の 名前を冠した一群の資料として蔵書すべてを一括で永久 に保存すること。この特殊文庫としての取り扱いは、その後、東北大学附属図書館に他の多くの貴重な個人文庫 が集まる要因ともなったという。

東北大学の文系学問の基礎を作り、また東北大学附属 図書館の貴重なコレクション群の礎ともなった「狩野文庫」。その価値は偉大ながら、その内容は決して近寄りがたい、堅苦しいものばかりではない。

異形ながらも愛らしい妖怪たちが描かれた百鬼夜行や、歌舞伎役者を描いた戲子姿見、教科書でおなじみの解体新書や里見八犬伝。コレクションの一つ一つから、亨吉の教養の広さと深さ、そして彼の新鮮な好奇心までもが窺えるようでもある。

上段3点:百鬼夜行

 

ちなみにあの夏目漱石も亨吉の親しい友人の一人。「吾輩は猫である」の苦沙弥先生、「それから」の代助のモデ ルとなったのは亨吉だという説も。そして、豈図らんや、漱石の旧蔵書3,068冊も「漱石文庫」としてこの東北大学附属図書館に収蔵されているとは、二人を、そして東北大学を取り巻く縁はよほど深いに違いない。

「古典の百科事典」「江戸学の宝庫」とも呼ばれる東北大学の至宝「狩野文庫」。10万冊を超える亨吉と資料との出会いがいま、私たちの目と心を楽しませてくれる。

坤輿萬國全圖

戲子姿見

里見八犬傳

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