2017年10月18日
  まなぶひと

まなび情報誌「まなぶひと」 2017年11月号

特集「漱石文庫」

「道草」原稿

神主と、文庫の霊

東北大学は夏目漱石の蔵書をほぼすべて、持っている。

その名も「漱石文庫」。

東京出身、帝大卒、松山、熊本で教鞭をとり、英国留学。

帰国後東京帝大で英文学を教えたのち、新聞社へ。

そして国民的小説家。

宮城、仙台、いわんや東北大学とのつながりは、いったいどこにあるだろう。

⾃筆の第五⾼等学校⼤学豫科⼊学試験 英語科問題 草案( 明治31 年)。熊本での教師時代の貴重な資料。

新⼩説・ホトトギスの雑誌表紙。ホトトギスでは明治38 年より「吾輩は猫である」、新⼩説では明治39年に「草枕」を発表している。

東北⼤学附属図書館貴重書庫内、漱⽯⽂庫の書架。
※資料はいずれも東北⼤学附属図書館所蔵。

 

漱石の周囲には多くの友人、門人がひしめいていたが、その中に小宮豊隆という人物がいる。あの『三四郎』のモデルとしても知られ、漱石を崇拝するあまり「漱石神社の神主」とまで言われた人物だ。彼は漱石の自宅に書生として住み込み、まるで家族の一員かのように身のまわりの世話を焼いていたという。

 

そんな小宮は後にドイツ文学者として東北帝国大学法文学部の教授となり、また東北帝国大学附属図書館の第五代館長となった。

 

漱石の没後、彼の蔵書を広く役立ててもらうためにはどうすればよいかと門人たちが考えた末、小宮が勤める東北大学附属図書館に寄贈してもらうのがよいだろうということになったらしい。

 

東北大学は「実験心理学の父」ともいわれるウィルヘルム・ヴントや、漱石の敬愛するラファエル・フォン・ケーベル(漱石をして「一番人格の高い教授」と言わしめた哲学者・音楽家だ)、親友の狩野亨吉の蔵書もひとまとめに所有していた。

その実績もあり、この東北大学の図書館に、漱石の蔵書が納められることになったという。

同時代の作家の多くの資料が東京の戦火で失われた中、仙台へと移された漱石の旧蔵書は、いまも彼が実在した証を、余すことなく伝えてくれている。

 

小宮はその著書で述べる。「『漱石文庫』にもし霊があるとすれば、その霊はむしろ仙台に来ることを喜ぶに違いない。」と。なにせ敬愛するケーベル先生と親友の狩野亨吉の蔵書と一緒にいられるのだから。

 

仙台・東北大学には小宮のほかにも多くの漱石ゆかりの人物がいる。ロンドン時代を共に過ごした後輩・土井晩翠然り、弟子・阿部次郎然り。

彼らの蔵書も集まる東北大学では、きっと夜な夜なその霊たちが、文学哲学談義に花を咲かせているに違いない。

漱石生誕150年記念特別企画展が開かれます。

漱石文庫や狩野文庫、そして漱石を取り巻く人々の資料から漱石の魅力を紐解く企画展が行われます。10月17日からは青葉通り地下道ギャラリーでPR展示。ぜひご覧ください。

こちらもどうぞ

阿部次郎記念館

漱石から阿部次郎への手紙や「三太郎の日記」の直筆原稿なども展示。

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