2019年04月22日
  まなぶひと

まなび情報誌「まなぶひと」 2019年5月号 Vol.54

特集:植物標本庫・ヤナギ科コレクション

~百花柳乱~

木村有香が新種記載したユビソヤナギのタイプの個体(♀)から様々な時期に採集した標本。

[TYPUS]と朱印があるのが植物名の基準となる[タイプ標本]

 

同じく木村が栃木県那須で採集したバッコヤナギ×オオキツネヤナギの雑種個体(♀)からの標本で,新雑種として記載された際に[タイプ標本]とされた。いずれも時期により形態が大きく変化する。

 

木村有香(ありか)。東北大学植物園の初代園長であり、ヤナギ科植物の分類学的研究の第一人者であった彼が収集したヤナギ標本数は、2万点超。分類が非常に難しいヤナギ科において、日本におけるヤナギ科の約1/3の種は、彼により発見されている。

現在、東北大学の所蔵する植物標本の数は全体で54万点を超え、その規模は国内でも有数のものとなっているが、この蓄積は木村のコレクションが基礎となっている。木村が生涯をかけて集めて研究したヤナギ科植物標本は、生前に木村自身によって整理された2万余はその配列のまま特別室に保管され、死後に整理されたものについてはそれ以外の標本と共に一般標本庫に保管されている。今回はその中から一部を紹介することとしたい。

 

ヤナギ、柳、楊?

ヤナギを表す漢字には柳と楊の2つがある。一般にヤナギといえば川岸でさらさらと垂れ下がった長い枝葉をゆらす、シダレヤナギがイメージされ、柳の漢字は本来この類をさすものであったが,現在ではこの漢字は幹の高さや枝の向きに関わらず広くヤナギ属を指す。一方で、楊は街路樹として用いられるポプラ(ハコヤナギ)の仲間をさす漢字である。字書ではしばしば枝が垂れるのが柳、立ち上がるのが楊と書かれているが、正しい解釈とはいえない。

 

ネコヤナギの雄花。花粉の入る葯は初めは赤く,開くと中から黄色い花粉が現われる。雌花は4月の末には実になって割れ,中から柳絮(りゅうじょ)と呼ばれる綿毛に包まれた種子が現れて風に舞う。
なぜヤナギ?

さて、木村はなぜ、ヤナギ研究に魅了され続けたのだろうか。それはヤナギが、種の分類が極めて難しい科の一つであることが影響しているであろう。

 

通常、植物を分類するに当たっては、生殖器官(花)と栄養器官(葉・枝など)の様々な形態を総合的に調べる必要がある。大体の植物においては、時期を選べばこのすべてが一度に揃った状態の標本を入手することはそう難しくない。

けれどヤナギ科植物は、ほぼ全ての種で雌の木と雄の木が分かれており、なおかつ花と葉の出るタイミングも、花が先、花と葉が同時、葉の出た後に花、などさまざまだ。つまり、一時期に一株の標本だけでは分類に必要な情報が得られにくいのである。加えて、花も小さく退化しており、分類する手がかりが掴みづらい。更には簡単に雑種が作られるため、その分類たるや、想像を絶する手間と時間と知識とを必要とすることがお分かりいただけるだろう。

 

DNAによるあらゆる生物の識別が可能になっている現代においても、ヤナギ科植物の約2/3はDNAバーコーディングでの識別が不可能である。つまり、今もってヤナギ科植物の分類は生態標本に頼るところが大きく、ゆえに東北大学植物園標本庫が所有するヤナギ科コレクションは、今も変わらず貴重な研究資産なのである。

 

この研究の困難さは、きっと木村の研究者魂を激しく刺激したに違いない。

木村は北海道から九州に至るまでヤナギの生育地に少なくともそれぞれ2回は訪れて、集団サンプリングを行った。各個体に固有の識別番号をつけ、違った態様の標本を採取するために時期をずらして複数回、その地を訪れたのである。

標本採取だけにとどまらず生きた状態でも個体を持ち帰り仙台にて挿し木を行いより詳細に観察を行った。

木村らにより持ち帰られた標本は今も植物園内の「ヤナギ園」で管理されている。

 

植物園本館の脇と裏に広がるヤナギ園。木々の学名プレートには命名者である”Kimura”の名前が多く目につく。

 

標本作成にこめられたもの

研究の結果、新種の植物であることが分かれば、研究者はそれを学術論文にて新たな学名をつけて発表する。その新種発表の論文に引用される標本を「タイプ標本」と呼ぶが、ヤナギ科に限らず、東北大学植物標本庫が所蔵するタイプ標本の数は500点を超える。これらはまさに、東北大学の宝といえるだろう。

 

見た目にも美しい「押し葉標本(さく葉標本)」だが、よい標本を作成するためには、採集する個体の選別からその後の処理に至るまで、様々な配慮が必要とされる。

花や果実、できれば根まで揃った完全な個体を採取すること。生育地での態様(葉が折りたたまれていたり、花がつぼんでいたり)を崩さないようにすること。

乾燥後に標本を張り付ける台紙も指定され、固定するテープは何百年もの保存に耐えられる素材、そしてラベルへの記入も、永久に消えないインクが選ばれるそうだ。

 

これだけ様々な配慮がなされるのは、貴重な研究資料を広く、そして後世にまで長く受け継いでゆくため。丁寧に作成された標本は、採集者だけにとどまらず、世界中、そして未来の研究者にもその利用を可能にし、それはより確かな研究へとつながっていく。

木村が収集した標本の一枚一枚からも、連綿と続く研究者の血に流れる、遺志とでもいうべきものが感じられるようだ。

成果を残すこと。それは、その研究者一人の功績のためではなく、「後世に伝えるべき何か」を生み出すことなのだ。

 

木村が魅せられ続けた百花百様のヤナギたち。四季折々に姿を変えるその木々は、今日はどんな表情を見せてくれているのだろう。

 

標本を作成する標本整理室内。

 

膨大な数の標本が収められている標本庫内。木村のコレクションは他と分けて保管されている。

 

東北大学植物園スペシャル5デイズ!

5/2~5/6までの5日間

入園が無料になります!

くわしくは、こちら

 

東北大学植物園

住所:仙台市青葉区川内12-2

TEL:022-795-6760

休園日:月曜(休日の場合その翌日)

■入園料金■入園料金〈個人〉大人:230円 小人(小・中学生):110円
〈団体〉大人1につき:170円小人1につき:90円
〈GreenPass青葉山(年間パスポート)〉大人:1000円小人(小・中学生):500円※個人のみ,有効期限は購入日から1年間

※萩友会プレミアム会員は会員証提示で入園無料になります

□開園期間 春分の日(3月21日)~11月30日
□開園時間 午前9時~午後5時
※午後4時までお入り下さい。

詳しくは、こちら

 

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