2019年06月14日
  まなぶひと

まなび情報誌「まなぶひと」 2019年7月号 Vol.57

7月号特集:史料館企画展「西田幾多郎と東北大学ゆかりの人々」

~交わる「哲学の道」~

 

 

西田幾多郎。

日本を代表する哲学者である彼の名に耳馴染みがなくとも、彼が思索に耽った道が京都の「哲学の道」であると聞けば、その偉大さに思い至ることは容易いだろう。

「日本最初の哲学書」と呼ばれる『善の研究』を発表し、西洋哲学とは異なる視点での「西田哲学」と呼ばれる世界に名高い独自の思索体系を築いた彼の元には、全国から幾人もの俊才が集まり「京都学派」と呼ばれる一大学派を作り上げるに至った。

西田といえば京都帝国大学の印象が強いが、実は西田の恩師、弟子、そして姪など、西田ゆかりの人物がかつての東北大学にも多くいたことはご存知だろうか。

20世紀の初頭、世界で科学哲学が発展し、日本の近代教育が育っていった時代、近代日本における哲学の巨人である西田と彼を取り巻いた人々が、開学間もない東北帝国大学とどのような関わりを持っていたのか、その一端を紹介することとしたい。

 

〇西田哲学とは?

西田が生み出し、作り上げていった西田哲学、京都学派とはどのような学問体系なのか?

その詳細はここでは紹介し負えないが、西田は、自身の参禅の経験と近代哲学とを融合させ、主観と客観を対立させて捉えてきた西洋哲学では解ききれない問いへの解を得ようと、思索を深めていったとされる。

当時の日本は、西洋からさまざまな科学技術や思想が輸入され、それを基に学問を深めていくのが主流であった。しかし西田は、ただ西洋から受け入れるだけではない、純粋で独創性のある思索・研究を続け続け、それに共鳴する形で、日本独自の学問研究を希求する「京都学派」が発展していったのである。

 

〇西田の後継者と「科学概論」

西田の後継者とされる田辺元は、西田とともに京都学派を発展させていった中心人物の一人であるが、田辺は、東北帝国大学においても講師として教鞭をとっていた。

田辺が受け持ったのは「科学概論」という授業である。哲学者である田辺が「科学概論」を受け持つことは一見不思議に感じるかもしれないが、当時20世紀の初頭は、量子概念の発見や相対性理論など、物理学、数学の基礎を揺るがす発見が相次ぎ、それはすなわち哲学的基礎を揺るがす一大事件でもあった。そんな時代、数理哲学を専門とした田辺の知見は当時の哲学界を風靡し、その田辺を初代講師に据えた東北帝国大学の「科学概論」の授業は非常に先進的だったといえるだろう。

 

京都市左京区の若王子から銀閣寺まで琵琶湖疏水分線沿いに巡らされた「哲学の道」。
(提供:石川県西田幾多郎記念哲学館)

1922年にドイツのハルレより送られた田辺から西田への絵葉書。石川県西田幾多郎記念哲学館蔵。

 

〇西田の姪と東北大学

さて、西田の姪(妹の娘)、高橋ふみも東北帝国大学で学んだ女子学生の一人である。ふみは1926年に東北帝国大学に入学し、法文学部哲学科で哲学を学んだ。卒業後は西田の論文のドイツ語翻訳も手掛けている。伯父を慕い尊敬し、同じ哲学の道を志したふみであったが、本来であれば、西田が教授を務めていた京都で学問を修めたかったに違いない。

しかし当時、女子学生を受け入れていた帝国大学は東北帝国大学などごく限られたものだった。東北帝国大学は1913年に日本で初めて女子の入学を認めた帝国大学であるが、その時の総長北条時敬は西田の少年期からの恩師であるから、これも西田と東北大学の浅からぬ縁を感じるところである。

実際、京都大学が女子学生の入学を受け入れたのは戦後、1946年。今に続く門戸開放の理念のもと、いち早く女子の入学を認めた東北帝国大学で、ふみは自身の高い志を貫くことができたのである。

 

東北大学史料館に保管されている高橋ふみの学生原簿。「性質」は「淡泊」で、「好奇心に冨み勤勉」とある。

 

〇交わる「哲学の道」

西田自身も東北帝国大学を訪れ、講演を行っている。1935年9月。当時法文学部の教授で後に第9代東北大学総長となる高橋里美は、講演時の西田の様子を振り返り「形而上学そのものがそこに立っているようだ」と表現した。講演は聴講した人々に刺激を与え、新たな論文の執筆や活発な議論につながったという。

自身の「哲学の道」を見つめ、極めていった西田幾多郎。その道に先導された若者、横切った若者、あるいは遠くから見つめなおした若者。たくさんの人々が彼の道をそれぞれの形で辿ったことだろう。様々な思いが交わる「哲学の道」は、この東北大学にも引き継がれている。

西田の講演を知らせる学内文書。演題は「歴史的実在の世界」。9月25日から3日間開催された。東北大学史料館蔵。

 

〇仙台版「哲学の道」!? ~三太郎の小径~

西田と同時代の哲学者に、東北帝国大学法文学部美学講座の教授を務めた、阿部次郎がいる。彼が記した『三太郎の日記』は、西田の『善の研究』とともに当時のエリート学生の必読書であった。東北大学の川内キャンパスには、散歩好きだった阿部次郎にちなみ「三太郎の小径」と名付けられた小径が今も残されている。緑に囲まれた小径には欅や銀杏の大木も聳え、千貫沢の沢音や野鳥の声を聴きながら思索に耽るのも楽しい。

三太郎の小径には、川内萩ホールの北側などから。大手門跡を抜けて仙台城三の丸跡には阿部次郎の碑もある。

 

東北大学史料館 企画展

西田幾多郎生誕の地・ゆかりの地交流事業

「西田幾多郎と東北大学ゆかりの人々」

期間:2019/7/1(月)~7/31(水) 期間中無休、入場料:無料、開館時間:10:00-17:00(土日祝日は16:30まで、7/13は17:00まで)

※申込・問合せ:石川県西田幾太郎記念哲学館

TEL:076-283-6600

 

講演会:

2019/7/13(土)

片平さくらホール 13:00-15:30 定員100名 無料 要申込(先着順)

 

キャンパスツアー:

同日10:00-11:30 定員20名 無料 要申込(先着順)

 

詳しくは、こちら

 

 

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