2018年02月26日
  東北大学コラム

【「自分の顔」をめぐる謎】第5回 脳が語る自己の多面性

東北大学 加齢医学研究所/災害科学国際研究所 准教授   杉浦 元亮

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年12月25日掲載

 

「自己像を見ている時にだけ働く脳領域」は、その働き・役割から大きくA~Cの3つに分けて考えることができます(図2)。

 

<図2>自己像に特徴的な脳活動(大脳右半球を横から見る)に想定される意味.

青色は視覚・身体感覚情報(A1・A2)の処理と身体運動の制御(A3)に関わる領域で、「自分が思ったとおりに動く」特徴を反映.

赤色(B)は高度な概念処理に関わり、「誤った考えの修正」への関与から認知症患者の自己認知障害を説明.

緑色(C)は「社会性」に関わり、この領域の働きを調節する能力が、自己認知能力の進化と関係.

 

A(緑)1~3は感覚と運動に関する情報処理を行う領域です。

A1は視覚情報の処理に関わる領域、A2は身体の感覚情報処理に関わる領域、A3は身体運動の制御に関わる領域です。

いずれの情報処理も「自分が思ったとおりに動く」像を目の前の環境から検出するために必須の処理です。

 

実際、ゲームでキャラクターを操作する時に、プレイヤーの脳ではこれらの領域が活動します。

発達心理学や実験心理学から見た自己像の特徴を支持する結果です。

 

B(赤)は高度な概念処理に関わる領域です。

ヒトで特徴的に発達した前頭前野と呼ばれる領域の中でも、この右外側の領域は、自分の考えをコントロールする機能を持ちます。

与えられた情報が、知識や文脈と矛盾すると、この領域が活動することも知られています。

当然「誤った考えの修正」にも重要な役割を果たすでしょう。

認知症患者の症状を説明する仮説と一致する結果です。

 

C(青)は「社会性」に関わる領域です。

様々な社会的情報の検出に関わり、特に他者の気持ちや考えを推測する時にはこの領域が活動します。

動物は一般に、鏡の中の自己像に対して、他の個体に対してと同じ態度を取ります。

チンパンジーなどの自己鏡像認知ができる動物も、最初は同じですが、やがて他の個体に対する態度が消えて、自己と認知するようになります。

「社会性」に関わるこの領域の活動を柔軟に調節する能力が、自己認知能力と関係あるのかもしれません。

動物心理学の進化論的考察に沿った結果といえます。

 

このように、自己顔認知の脳機能イメージング研究の結果から、3つの考え方のいずれもが正しいらしいということがわかりました。

自己像は自分が思ったとおりに動くものであり、その認知には高度な概念処理も社会性も関係するということになります。

 

我々は毎日、鏡の中の自分の顔を何気なく眺めていますが、脳の中では大変なドラマが繰り広げられているのですね。

自分の顔を見ている時に、たまに言葉にならない不思議な気分になるのは、そのせいなのかもしれません。

 

 

【プロフィール】

杉浦 元亮

東北大学 加齢医学研究所/災害科学国際研究所 准教授

「自己」をキーワードに、人間が物理的・社会的環境と適応的に関わる脳メカニズムの解明に取り組んでいる。

さらにこの新しい人間科学を高齢化や災害などの社会問題へ応用することを目指している。

※所属等は取材当時のものです。

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