2018年05月25日
  コラム

「災害の神話学」第1回 地震が起きるわけ

東北大学大学院文学研究科  准教授  山田 仁史

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2016年7月25日掲載

 

第1回 地震が起きるわけ

東日本大震災から5年がたちました。今でこそ、地震が起きるメカニズムは科学的に説明されますが、それがいつどこで発生するかという予測は、まだ困難なようです。ましてや、そうした術のなかった時代、人々は地震が起きる理由について考えをめぐらせ、神話や伝承の形で語りついできました。

〈魚や蛇が地震を起こす〉

日本では、ナマズが地震を起こすと想像され、江戸時代後期には世相風刺も兼ねて、多色刷りの「鯰絵(なまずえ)」がひろく流布しました。

どうやら中世の日本では、竜蛇が地震の原因と考えられていたのが、江戸時代初めころからナマズに変化したようです。同様に魚が地震を起こすという観念は、東アジアから東南アジアに広くみられます。

たとえば沖縄県、八重山諸島では次のように言われてきました。ニーラ、つまり大地の底のはるかな世界には、大きなカニとウナギが住んでいる。悪癖のあるカニは、そのはさみを振るってウナギを奇襲する。するとウナギは痛みに耐えかねて尾を振り動かす。その時に地震が起きるというのです。

同じ構図はさらに南へ、つまり台湾からフィリピン、インドネシアへと広がっています。つまりウナギや蛇など長い生き物が地震や洪水を引きおこし、カニやエビなどはさみを持つ動物が、それを退治するというものです。

地震は火山の噴火によっても引き起こされます。太平洋の島々では、そうした結びつきが固く信じられてきました。タンガロア、マウイ、マフイエなどと呼ばれる神々は、火山の中あるいは地中に住まいを持っており、噴火や地震を起こすと考えられてきたのです。

〈地面をささえる豚や牛〉

魚や蛇だけではありません。豚や牛が地震の原因だと考えてきた人々もいます。

たとえばフィリピンのミンダナオ島に住むビサヤ族やブキドノン族では、世界は複数の柱が支えている、と伝えていました。柱のそばには何頭かの豚がいて、この豚たちが走り回ったり、体をこすり合ったりすると、地震が起きるのだと考えていたのです。そのためビサヤの人たちは、地震が起きると「ボワ、ボワ、ボワ」と豚を追いたてる声を出したと言います。

豚ではなくて、牛が地下の柱をゆらすと地震が起きる、という観念も広く、東南アジアから西アジア、そして北アフリカにかけてのイスラーム圏に分布しています。

これについて私は、おもしろい体験を二つしました。一つは、東南アジアでは高床式住居の床下に豚を飼う所がしばしばあることです【写真】。居住空間の下の柱に豚がくっついている、というのは、地下の柱とその回りの豚、という観念の原型なのかもしれません。

高床式住居の床下に飼われる豚(ラオスにて)

 

もう一つ。上に書いた、豚が地震を起こす神話について、インドネシアで講演したことがあります。通訳の人がインドネシア語に訳してくれたのですが、会場で笑いが起きたのです。後から聞いてみると、会場には豚を嫌うイスラームの人々もいたので、通訳の人が配慮して「豚」ではなく「小さい牛」と訳したのだそうです。そうすると、イスラーム圏では豚の話が牛に置き換えられた可能性も、考えていいのかもしれませんね。

次回は「第2回 大洪水の記憶」です。

【プロフィール】
山田 仁史
東北大学大学院文学研究科准教授
宗教民族学の立場から、人類のさまざまな神話や世界観を研究中。
著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)がある。

ブログ「buoneverita」
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※所属等は取材当時のものです。

 

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