2017年11月07日
  東北大学コラム

【経済学で読み解くニュースの核】第4回 消費税の食料品非課税は本当に生活の負担を軽くするか

東北大学大学院経済学研究科 教授 高齢経済社会研究センター長   吉田  浩

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年9月10日掲載

 

 

1.ギリシャ以上の日本の借金と消費税

現在の日本の国の借金は1000兆円で、歴史的国際的に見ても極めて高い水準です。図1を見るとこれほどまでの借金をしている国は先進国では日本だけなのです。GDP(国内総生産)の200%とは、日本人が1年間に稼ぎ出す量の2倍以上の借金をしていることになり、日本人が飲まず食わずで返し続けても2年以上かかるということです。先ごろ国家破たんが話題となったギリシャでさえ170%台でした。

その中で、今後急速に本格的な高齢社会の到来により、現在年間100兆円程度の社会保障支出は1.5倍程度に増加していくと予想されています。

 

このため、政府は「社会保障と税の一体改革」を提唱し、その一環としてその増税分は社会保障予算に充当するという条件のもと、昨年の4月に消費税率を8%に引き上げました。

 

しかし、その3%分の増税だけでは到底増加する支出を賄うことはできないため、政府はさらに消費税率を10%にまで引き上げる計画を明らかにしています。その引き上げと同時に、消費税増税の負担を少しでも軽減するための配慮措置として、食料品への非課税措置の導入が提唱されています。

 

今日はそのような消費税での非課税措置の導入により、本当に私たちの負担が軽くなるのかを考えてみましょう。

 

2.吉四六さんのような経済政策?

その前に、民話「吉四六(きっちょむ)さん」を紹介しましょう。吉四六さんというのは大分県に伝わるユーモアあふれるゆかいな笑い話の主人公です。その吉四六さんの笑い話の中に次のような一説があります。

 

山にたきぎを取りに来た吉四六さんは、どっさりと集めたたきぎを馬の背にのせて、山を降りることとしました。しかし、そのたきぎの重さのために馬はよろけて歩いていました。それを見て、吉四六さんは馬がかわいそうになり、馬の背からそのたきぎの束を下して、自分も背負ってやることにしました。そして吉四六さんは馬に乗って山を降りてゆきましたとさ・・・、

 

というものである。

 

3.非課税になった分はどこから?

これを聞いて、何ら馬の負担は軽くなっていないことは明らかです。笑い話ならそれでいいのですが、国家の政策でそのようなことが起こっては困ります。というのは、そもそも今回のあるいは今後の消費税の増税は、「社会保障と税の一体改革」の示すとおりに、社会保障等にあてる一定の財源を確保することにあります。その条件があるにもかかわらず、消費税に非課税品目を作ってしまうと、当然その分の税収は不足することになります。

 

しかし、それだからといって社会保障の維持充実に必要な支出とそのために必要な税額は減るわけではありません。そこで、非課税措置が存在したままならば、何らかの方法で税収を上げなければなりません。ですから、たとえ消費税率を8%から10%に上げてもまるまる2%分税収が増える訳ではないので、結局、将来税収を確保するために残る課税の品目にかかる消費税率を10%以上に上げざるを得なくなるわけです。これはまさに「吉四六政策」の典型ではないでしょうか。

 

4.税にアンバランスあると困ること

税金は誰に対しても例外がなく、公平でなければならいとはだれでも理解することができると思います。しかし、これに加えて税は中立であることも必要です。消費税でこのように非課税の品目のあるともはや中立ではなく、人々に偏った行動を引き越こすことになります。

 

例えば、スーパーで買う食料品素材は生活必需品なので非課税としますが、同じ食べ物でもレストランで食べる外食は贅沢なので10%を課税されるとしましょう。あなたが誰かの誕生日をおいしいハンバーグ料理でお祝いしようとします。予算は3000円だとするときに、課税対象の外食(実質では税抜き約2700円しか買えません)と非課税の食品素材(3000円分まるまる買えます)を考えてみると、当然非課税対象品目を買う方が10%分得になるわけです。このようなことがいろいろなところで起こるようになると、国民の消費支出のバランスは徐々に非課税品目に偏っていくことになります。

 

5.税の恩典と増税の悪循環

実はこれは政府や国民にとっても困ることになるのです。なぜなら、課税対象の品目は国民が避けていくようになるので、その売上は減っていくことになります。ですから、非課税品目導入によって、まず非課税分の減収とそれに加えて課税分の商品の売り上げ減少の落ち込みのダブルパンチで影響が拡大することになってしまいます。

 

また、非課税品目は10%分の課税がない有利な点を持っているので、本体価格を多少値上げしても課税品目に対抗できることになります。さらに、非課税品目と競合する商品を売る業界は、消費税率のさらなる引き上げ時に非課税品目への認定を求めるかもしれません(たとえば、外食でも1人3000円以下なら免税にしてほしいなど…)。

 

このように非課税品目がもっと増えれば、税収の減少をカバーするために、本体の税率をもっと高くしなければ、税収を確保できなくなます。ですから、社会保障のために総体で必要な税額が不変である限り、負担と課税免除のいたちごっこは続くことになります。

 

実はこのような減少は、現在行われている政策の中に散見されます。国民はニュースの背景にある、そのような吉四六政策を見抜く目を養わなければなりません。

 

※1. 歴史的国際的に見ても極めて高い水準の日本の借金

http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201503/kanryaku201503.pdf

※2. 「社会保障と税の一体改革」

http://www.mof.go.jp/comprehensive_reform/index.htm

 

次回は「第5回 説明責任ってどういうこと?ニュースで気になる言葉」です。

 

【プロフィール】

吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授
高齢経済社会研究センター長
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、玩具福祉学などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。

 

 

関連記事

新着記事