2018年11月21日
  コラム

「ロボットで探る心理学」 第1回 ロボットの「まなざし」

東北大学 大学院 教育学研究科 小嶋 秀樹  教授

 

ロボットで探る心理学 第1回 ロボットの「まなざし」

 

はじめまして。小嶋秀樹と申します。子どもの「心とコミュニケーションの発達」を中心に、心理学とロボット工学の両面からアプローチするという、ちょっと変わった研究をしています。このコラムでは、「心とコミュニケーションの発達」に関するいくつかのトピックをご紹介したいと思います。

 

今回のテーマは「まなざし」です。

 

「目は口ほどに物を言う」といわれるように、言葉を交わさなくても「まなざし」だけで気持ちを伝えることができます。嘘をついているかどうかも「目を見れば分かる」と言われますね。「まなざし」のやりとりは、私たちの日常的なコミュニケーションのなかで大きなウェイトを占めています。

 

ロボットと人のあいだのコミュニケーションについても同じことがいえるでしょう。ロボットとの自然な意思疎通を実現するには、ロボットも「まなざし」を持ち、人と「まなざし」をやりとりできることが期待されます。

<写真1:子ども型ロボット「インファノイド」>

 

「まなざし」を研究するためのツールとして開発したのが「インファノイド」です。上の写真1にあるように、メカむき出しのヒューマノイド(人間型ロボット)です。上半身だけですが、4歳児のサイズを再現しました。手でオモチャをつかんだり、指さしをしたりできます。また、眉毛や唇を動かして、表情をつくりだすこともできます。

 

いちばん印象的なのは2つの眼球ですね。モータによって上下左右に回転し、もちろん寄り目にすることもできます。白目と黒目のコントラストがはっきりしているので、人から見て、インファノイドがどこを見ているのかを簡単に読みとることができるのです。

<写真2:インファノイドの頭部>

 

上の写真2をよく見ると、それぞれの眼球に2つの小さなビデオカメラが入っているのがわかります。下段のカメラには広い視野をカバーするための広角レンズ、上段のカメラには視野の中心を詳しく見るための望遠レンズが装着されています。人間の目の解像度が視野の中心では高く、周辺にいくほど低くなることを、工学的に再現した結果です。

 

このインファノイドの「まなざし」を人はどのように感じとるのでしょうか。下の写真3をご覧ください。人とインファノイドが向きあっていますね。

 

<写真3:インファノイドとのアイコンタクト>

 

これは、人とロボットが「アイコンタクト」をした瞬間を捉えたものです。インファノイドの後ろに2つのディスプレーがあり、左側に広角レンズの画像、右側に望遠レンズの画像が表示されています。インファノイドは広角レンズの画像から人の顔を検出し、そこに視線を向けます。眼球だけでなく、少し遅れて頭部や上半身も向けることがあります。そして、望遠レンズで捉えた顔や目から、さらに詳しい情報(その人の視線方向や表情など)を解析するのです。

 

たくさんの被験者に、このインファノイドとの「まなざし」のやりとりを体験してもらいました。ひとりずつインファノイドのいる部屋に入ってもらいます。インファノイドは被験者の姿を捉え、その眼球をギュッと動かし、被験者の顔や目を凝視するのです。被験者も同じようにインファノイドの目を見ます。「アイコンタクト」の成立です。被験者が動いても、インファノイドはその目を追跡しつづけます。その様子(デモ)を下の動画でご覧ください。

<動画:「まなざし」のやりとり実験(デモ)>

 

インファノイドに凝視された被験者は、インファノイドが「意識をもっている」「心をもっている」と強く感じ、ちょっと不思議な印象をインファノイドにもつことがわかりました。「あのロボットは私の存在を意識している」「私を凝視しながら何かを感じとっている」「私のことをどのように考えているのか気になる」などです。

 

私たちは「まなざし」をもつものに「意識」や「心」を感じるようです。自動車や電車の「顔」をつい擬人化してしまうのも同じ原理なのでしょう。そして、その「まなざし」が互いにつながったとき、つまり「アイコンタクト」が成立したとき、「意識」と「意識」、「心」と「心」のつながりを予感します。こうして、表情や身ぶり、そして言葉を介したコミュニケーションに入っていくための「向きあい」がつくられていくのでしょう。

 

次回は、子どもの発達とからめて、より複雑な「まなざし」のやりとりについて解説したいと思います。おたのしみに。

 

 

【プロフィール】

小嶋 秀樹 (こじま ひでき)

東北大学 大学院 教育学研究科 教授

専門は認知科学。ロボット工学と心理学の両面から子どものコミュニケーション発達を研究しています。自閉症療育やそのためのロボットの活用にも興味をもっています。

※所属等は取材当時のものです。

 

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