2017年09月22日
  東北大学コラム

【セリフで分析 シェイクスピアの世界】第2回 ロミオとジュリエットの愛のささやき

東北大学大学院 文学研究科 准教授 岩田美喜

仙台放送ニュースアプリ【みんなのゼミ】にて
2015年7月14日掲載

 

シェイクスピアの時代、お芝居は普通、詩(韻文)で書かれていました。とはいえ、構える必要はありません。日本の歌舞伎でも、「知らざあ言って聞かせやしょう」という弁天小僧の有名な台詞が七五調になっていますね。

 

韻文の台詞というのは、役者が調子よく語り、かつ観客が気持ちよく聞くための工夫だったのです。

 

けれども、英語の詩は日本語の「五・七・五」のように、音節(syllable)に従う型ではありません。英語という言語は日本語よりもずっとアクセントを重視しますので、母音の強弱の配列によって一定の抑揚を生み出す、韻律(meter)を基本とした詩型を使います。

 

ただし、劇で用いられる詩型では、あまりに調子よく、わざとらしく聞こえないように、あえて脚韻は踏みません(これを “blank verse” と言います)。ところが、『ロミオとジュリエット』(1596年ごろ)では、脚韻を踏むことで、二人の心の結びつきを表す工夫がされている箇所があるのです。

 

よく知られているように、ロミオとジュリエットは、長らく敵対するモンタギュー一族とキャピュレット一族の御曹司と一人娘という設定です。不和と暴力が蔓延する劇世界のなかで、二人の恋は調和と平和の象徴なのです。

 

ところが、こちらはあまり知られていませんが、ジュリエットはロミオの初恋相手ではありません。芝居の冒頭近くで、ロミオが友人に片想いのつらさを訴える場面がありますが、相手は(同じくキャピュレット一族に連なる身とはいえ)ロザラインという別の女性です。

 

この時ロミオは、二行連句(二行ずつ韻を踏む詩行)と撞着語法(正反対の語を結びつける修辞法)を、多用します。

 

「常に目覚めている眠り、それであってそれでないものだ!/そんな愛を感じるぼくは、こんな状態には愛着を感じない」(Still-waking sleep, that is not what it is! / This love feel I, that feel no love in this(1幕1場)

 

原文の下線部を引いた母音を強く読み、二重母音の脚韻に気をつけて、音読してみてください。

1行につき弱く読む母音と強く読む母音を交互に5回繰り返す「弱強五歩格」(iambic pentameter)という詩型になっていることが、感じられるでしょうか。

 

これが当時のお芝居の基本詩型でした(これはラテン語詩の韻律を援用したものです。シェイクスピアの詩劇は、同時代の英語改革運動の息吹に育まれた果実なのです)。

 

けれど、ロミオのこの台詞は、なんだか修辞技巧に凝りすぎて、策士策に溺れるといった感じですね。彼はまだ、頭で恋に恋しているのです。

 

さて、ロザラインに会いたいロミオは、1幕5場でキャピュレット家の舞踏会に忍び込みますが、そこでジュリエットを見た途端に一目惚れをしてしまいます。早速彼は、彼女を聖者に、自分を巡礼者にたとえて接吻を乞うのですが、その時の台詞は「ソネット」という詩型になっています。

 

一方、はしたない真似は出来ないけれど、自分も同じくらいロミオに惹かれたジュリエットは「聖者が自ら動きはしません。でも祈りを捧げる人のため、認めてはあげましょう」(Saints do not move, though grant for prayers’ sakeと答えます。するとロミオが「では動かないで。ぼくが祈りの効果を実感している間」(Then move not, while my prayer’s effect I takeとささやいて、二人はキスを交わします(一見、“prayer” という語の音節数が合わないようですが、ジュリエットの場合は「祈る人」という意味なので2音節、ロミオの場合は「祈り」という意味で1音節として読みます)。

 

この二人のやり取りも弱強五歩格の二行連句で書かれており、ロミオが歌い出したソネットを締める結部となっています。自然な会話でもありながら、二人の愛のささやきは、共同でソネットを作り上げる詩的な営みにもなっているのです。独りよがりの撞着語法と比べれば、その差は歴然でしょう。

 

このようにシェイクスピアは、ロミオがついに真の愛に出会ったことを、ことばの使い方でもって観客に伝わるような工夫を凝らしているのです。

 

次回は「第3回 生きるべきか、死すべきかの先には……」です。

 

【プロフィール】

岩田 美喜(いわた みき)

東北大学大学院文学研究科准教授

使用言語とアイデンティティの観点から、イギリスとアイルランドの演劇を研究している。

編著書に『ライオンとハムレット』(松柏社、2003年)、『ポストコロニアル批評の諸相』(東北大学出版会、2008年)など。

趣味 演劇鑑賞、油絵、スキー

 

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