2019年02月25日
  東北大学新聞

本学発ベンチャーSSF ~多方面での活躍に期待~

2019年1月号掲載

 

本学発ベンチャー「スピンセンシングファクトリー株式会社」(SSF)の起業を、本学工学研究科の安藤康夫教授と医学系研究科の中里信和教授が、2018年11月30日に発表した。SSFについて、取締役を務める安藤教授に話を伺った。

創立当初から磁石研究で世界をリードしてきた本学において、磁性体工学と半導体工学が融合した新たな技術分野のスピントロニクスは、本学を代表する研究分野の一つである。安藤教授は、本分野で盛んに研究されているトンネル磁気抵抗(TMR)素子の研究を行っており、本研究をSSFの技術に応用している。

SSFは、TMR素子を活用した磁気センサであるTMRセンサを生産していく。これまでの高感度素子は極低温でなければ動作しなかった。一方、TMR素子は室温でも高感度で機能し、現在、ハードディスクドライブや不揮発性磁気メモリなどで利用されている。TMR素子の働きを実証したのが、名誉顧問である本学の宮﨑照宣名誉教授だ。安藤教授は宮﨑教授の研究を引き継ぎセンサ素子の精度を高め、高感度かつ、小型で軽量のTMRセンサの量産化を実現した。

TMRセンサは医療分野、例えば神経疾患であるてんかんの治療に利用される。人間は体全体が脳からの電気信号で動いている。この働きに異常が起こると、脳は体にうまく電気信号を送ることができなくなり、てんかんにかかる。従来、脳の異常を調べる際、脳波を利用してきたが、脳のどこで異常が発生しているのか正確に把握できなかった。

これに対し、脳が発する電気信号は常に磁場を発生するため、TMRセンサで磁場を見ることで、てんかんの原因を突き止めることができる。さらに、TMRセンサは、脳に限らず、体中のあらゆる診断にも活用でき、病気の予測や早期発見も可能になる。

今日、MRIのような人体の磁場を測定する機器は、使用する素子が高感度で働くよう、極低温を維持しなければならず、巨大かつ高額なものが多い。常温で高感度のTMRセンサを量産することで、将来、高度な医療検診を日常的に受診するのも可能になり得る。また、小型化により、行動中もTMRセンサを身に着けることができ、スポーツ競技中の選手の思考、自動運転の際の脳の働きなどの測定も実現。医療に限らず、幅広い分野での活躍が期待される。

SSF設立は、十数年前の安藤教授と中里教授の出会いがきっかけだ。中里教授から医師が求める磁気センサ像を聞いた安藤教授は、本学が誇る磁気センサ技術なら実現し得ると気づき、二人は意気投合。その後、TMRセンサの共同研究を国立研究開発法人科学技術振興機構の援助により、本機構戦略的イノベーション創出推進プログラムとして開始。その一環として、SSF設立に至った。

今後、SSFは中小企業と協力し、TMRセンサのいち早い普及のため活動する。これまで、TMRセンサは需要があるものの、高感度のものがなく、製品化には至らなかった。自社のTMRセンサ広めることで、本学の技術を仙台や東北の産業界に還元し、地域を活性化するのが、SSFの目標の一つだ。安藤教授は、「今日、スピントロニクスを用いた製品はほとんどない。自分たちがスピントロニクスの製品を用いた一つの在り方を示し、本学、ひいては仙台と東北を元気にする助けになったらいい」と語った。

 

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